講演情報

[1J10]西側援助体制の自壊

*志賀 裕朗1 (1. 横浜国立大学)

キーワード:

開発援助、規範、アメリカ、法の支配

1.研究の背景およびリサーチクエスチョン
 これまで、開発援助秩序の変容は新興国の台頭の文脈で語られてきた。つまり、先進諸国が苦心して作り上げてきた開発援助を巡る国際秩序が、中国をはじめとする「外部」からの挑戦に晒され、変容を迫られているという捉え方である。しかし、開発援助秩序は、他ならぬ先進国自身の行動によって自壊しつつある。それを象徴するのが第2次トランプ政権の動きである。同政権は、米国国際援助庁( USAID)を国務省に統合するとともに、職員を大量に解雇し、援助予算を9割近く削減する方針を打ち出して世界を驚かせた。本発表では、こうしたアメリカ援助体制(規範および制度)の激変が如何にして起きたかを、法の支配の理論に照らして分析する。
2.資料・情報および分析方法
 法の支配は、権力の恣意的な行使を法によって抑制することを目指す当地の原理である。本発表では、法の支配にいう「法」を、制定法のようなハード・ローのみならず関係者によって長きにわたり遵守されてきた慣行のようなソフト・ローを含むものと理解したうえで、これまでのアメリカの援助体制を支えてきた法制度がどのようにしてトランプ政権によって無視され、歪められてきたかを分析する。
3.得られた知見    
 トランプ政権による数々の「横暴なふるまい」はしばしばトランプ大統領自身およびその周辺の「取り巻き」によるものと考えられている。しかし、トランプ政権が法制度を無視する形で援助体制を変更するのを可能にしたのは、立法府(連邦議会)および司法府(連邦最高裁)の積極的容認あるいは消極的認容があったからである。これは、アメリカ連邦憲法が想定する三権分立による抑制と均衡のメカニズムが働かず、むしろ三権の協働によって開発援助制度を巡る法の支配が崩壊したという事態の深刻さを示唆している。

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