講演情報

[1L03]ケニアにおける学校放火の報道分析―教育を受ける権利をめぐる論点―

*小川 未空1 (1. 大阪経済大学)

キーワード:

校内暴力、中等教育、ケニア

COVID-19感染拡大を防ぐための学校閉鎖は、世界各国で実施された。しかし、待ち望んでいた学校の再開後、いくつかの国では校内暴力が増えたといわれている。本研究で焦点を当てるケニアは、そのうちのひとつである。2020年3月からの約10か月間閉鎖された後、2021年1月に学校が再開されたが、直後から生徒による暴動や暴力行為が目立ち、とりわけ偏差値の高い寮制校における学生寮への放火が全国的に拡大した。ケニアでは、1990年代以降、中等学校での生徒による放火が「危機的状況、国家的災害」として語られてきたが、本研究では、コロナ以後の一連の学校放火をめぐる新聞報道を分析し、その語られ方の特徴を、過去の学校放火と比較検討することを目的とする。暫定的な分析の結果、放火の原因と責任をめぐる議論のなかに、生徒の教育を受ける権利をめぐる、3つの対立的論点が確認された。第一に、放火に関与した生徒の就学継続の権利を認めるべきか、第二に、生活規律に関する教育を受ける権利は学校で保障されるべきか家庭で保障されるべきか、第三に、学習と生活が共存する寮制校において人間らしい生徒の権利とは何か、である。教育を受ける権利は、ケニア憲法でも保障され、教育機会の普及は急速に進められてきた。それにもかかわらず、中等教育まで進学できた相対的に「恵まれた」生徒が、家に帰る目的や学校への不満から寮に火を放っている。この現象は、これまでの教育機会の拙速な拡大や学力偏重の政策に対する問題提起であるかもしれない。本研究は、学校放火をめぐる報道に表れた議論を分析し、教育を受ける権利がケニア社会でいかに語られてきたかを明らかにすることで、学びの本質をケニアの文脈から再考することを目指す。

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