講演情報

[1M09]難民キャンプにおける熟議によるガバナンスは難民の「尊厳を持って生きる権利」をいかに実現するのか? 
~パレスチナ難民キャンプの実践から導く、長期化する難民問題への示唆~

*関口 正也1 (1. 株式会社オリエンタルコンサルタンツグローバル)

キーワード:

難民、パレスチナ、ガバナンス、エージェンシー、レジリエンス、熟議型

世界の難民を巡る状況は長期化しており、「難民に関するグローバルコンパクト(GCR)」は、難民を単なる「受益者」から自立した「アクター」へと転換する「意味ある参加」を課題としている。長期化の先行事例であるパレスチナ自治区ヨルダン川西岸地区における難民キャンプは、「帰還権」という政治目標と「占領下」という特殊なジレンマに直面している。従来、キャンプ内のガバナンスはUNRWAへの依存と、住民委員会(PC)の正統性という課題を抱え、ボトムアップの開発計画を策定する仕組みが不在であった。本稿は、この状況下で難民が「尊厳を持って生きる権利」を追求した実践として、「パレスチナ難民キャンプ改善プロジェクト(PALCIP)」(JICAによる技術協力)を事例に取り上げる。住民参加型の「熟議の場(ミニパブリック)」という仕掛けが、いかに難民の主体性(エージェンシー)を育み、公的機関(パレスチナ解放機構難民問題局:DoRA)との関係性を構築し、レジリエンスを強化したのかを問う。
 分析対象は、筆者がチーフアドバイザーとして従事したPALCIPである。プロジェクトの報告書や第三者評価報告書に加え、筆者自身の「実践者としての参与観察」に基づき、本稿が「尊厳」を「集合的ケイパビリティ(選択する自由)」と定義し、その実現プロセスを分析する。
 分析の結果、DoRAが触媒となり設置された「キャンプ改善フォーラム(CIF)」が、多様な住民が「共通善」を探求する「ミニパブリック」として機能したことが明らかになった。このプロセスは、これまで受け身であった住民に意思決定の主体性を育み、彼らの「ケイパビリティ」を拡大させた。DoRAが「促進役」として公正なプロセスを保障したことで正統性を高め、ボトムアップで形成されたガバナンスは、危機下でもパレスチナ人の不屈の精神「スンムード」の実践とも言えるコミュニティ・レジリエンスとして機能した。
 この事例は、GCRが目指す「意味ある参加」とは、「恒久的解決」が困難な状況下においても、公的機関が難民とコミュニティへの関与を深め、彼ら自身の意思決定メカニズム(熟議の場)を構築することの重要性を示唆している。

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