日本心理学会第88回大会

実行委員長挨拶

2024年度の第88回学術大会は,2024年9月6日(金)から8日(日)の3日間,熊本城ホールで開催する運びとなりました。皆様のご来場を心よりお待ち申し上げます。

 

今回の大会においては,参加費の値上げという,心苦しいお願いをせねばなりません(但し,大学院生は値下げ)。まずはこのことについてご説明させていただきます。

 

公益社団法人日本心理学会定款第3条によれば,本学会の目的は次の通りです。

「心理学に関する学理及びその応用の研究発表,知識の交換ならびに会員相互及び内外の関連学会との連携共同を行うことにより,心理学の進歩普及を図り,もって我が国の学術の発展に寄与することを目的とする」

大会の開催も,この目的遂行の一環です。そのため,専門性の高い,比較的小規模な学会(以降,専門学会)がカバーできないことを積極的に実行するよう配慮し,以下の点を重視して大会を企画・開催してきました。

・海外の学会との連携

・海外研究者の招聘

・専門学会との連携

・多様な状況の会員が参加できる配慮

・多様な専門の研究者の研究発表

 

このため,日本心理学会の大会は,国内大会というよりも,むしろ国際学会に近い内容・規模となっています。国際学会の参加費は,たとえば前回のICP(国際心理学会)では,予約参加費が6万円を超えていました。昨年の日本心理学会神戸大会では,正会員(一般)の予約参加費は1万6千円でした。専門学会よりも高額ですが,国際学会並の行事を,かなり割安に実施している「準国際学会」である点をご理解願います。

過去の大会では,時折黒字を出すこともありましたが,概ね赤字決算でした。参加費収入が実施経費を下回っていたのです。そのたびに,本体の予算から遣り繰りして充当してきましたが,いよいよ,遣り繰りだけでは対処できない状況となってきました。

 

もちろん,実行委員会では,値上げの決断を行う前に,経費節減の工夫を行いました。例えば,海外の学会との連携海外研究者の招聘には,渡航費などの大きな支出が伴いますが,これを縮小しました。昨年は,5カ国から,それぞれの心理学会理事長・重役を招待しましたが,そのうちの3カ国は,渡航費をそれぞれの国の心理学会で支弁していただきました。また,ビデオによるリモート講演は,じかにお会いできないデメリットはありますが,渡航費節約のために導入した新たな工夫です。今年の招待講演・特別講演も,同様の工夫で渡航費用の縮減に努めています。

 

専門学会との連携については,日本心理学会会員以外の講師にご登壇いただくための旅費と謝金を1件当たり10万円を上限に支出していましたが,今年からは5万円に縮減させていただきました。連携促進に水を差す方向の苦渋の決断でしたが,なるべく日本心理学会会員を講師としていただくなどの工夫で,経費節減にご協力いただければ幸いです。

 

多様な状況の会員が参加できる配慮については,節約を心掛けつつも,しっかり行いたいと考えています。育児中の会員が,託児所の抽選に漏れて参加できないことがないよう,希望者全員が利用できるようにすることが,実行委員会の使命だと考えています。手話通訳,要約筆記なども,利用希望者のご希望に沿えるよう,節約しながら最大限お応えしたいと考えています。また,会員の皆様の多様な事情に即したハイブリッド方式を維持することにしました。しかし,ハイブリッドのための設備や人員配置は,予算を大きく圧迫します。よって,費用対効果の観点から,基本的に会場からのリアルタイム配信を取りやめ,録画提供にすることで,経費を節減させていただきます。ご容赦ください。

 

多様な専門の研究者の研究発表は,日本心理学会の特徴です。多様な専門の研究者が一堂に集い,研究発表をする場を提供することは,極めて重要な任務だと心得ています。そのため,大きな会場を4日間お借りすることになり,大きな支出となってきました。昨年の神戸大会を例にとると,約1,050万円かかっています。スケールメリットではなく,スケール「デメリット」が生じています。しかし,参加人数拡大は日本心理学会の目指すところであり,参加者数縮減対策は論外です。そこで,プレカンファレンスを思い切って中止し,会場貸借期間を3日間に削減して節約を図りました。ご容赦ください。

なお,支出削減と同時に,収入増を図り,「新刊連動講座」,「ランチョンセミナー」を創設したことを添えさせていただきます。

 

このような努力をして昨年よりもコンパクトな費用にしたとしても,昨年と同額の参加費では,赤字が予測されます。そこで,大会の健全で継続的な運営のため,やむなく値上げをさせていただきました。

正会員(一般)は予約参加費16,000円・通常参加費18,000円から,予約参加費18,000円・通常参加費20,000円に(いずれも2,000円値上げ),臨時会員は予約参加費18,000円・通常参加費20,000円から,予約参加費23,000円・通常参加費25,000円に(いずれも5,000円値上げ)とさせていただきます。正会員の参加費値上げを薄めに,臨時会員の値上げを厚めにさせていただきました。

その一方で,正会員(大学院生)については,予約参加費10,000円・通常参加費14,000円から,予約参加費9,000円・通常参加費11,000円に値下げさせていただきます。公費支出の難しい大学院生に配慮し,発表機会を提供したいという思いから,あえて値下げをさせていただくことにしました。今年は熊本大会ですが,地方学会では,学生の発表者が減少する傾向があります。大学院生の発表者減に歯止めをかけて,経済面でのダメージを少なくしたいという心積もりもあります。

 

値上げの弁明が長くなってしまいましたが,今年の熊本大会を内容的に充実したものにしようと,実行委員会で様々な企画を検討しました。

例えば,招待講演には,文化心理学の泰斗,Michele Gelfand先生をお招きしました。多くの会員の皆様に注目いただけることと思います。また,台湾心理学会理事長・周泰立先生は,ご自身で特別講演をしていただくだけでなく,台湾からの参加者を多数お誘いいただきました。

今年は,日中韓三か国国際シンポジウムの当番にあたっています。中国・韓国から,発表者や代表者がお越しになります。さらに,英語によるポスター発表を対象に審査し,JPA Distinguished Poster Presentation Award -International Divisionを授賞します。そのため,MOU締結団体に今まで以上に積極的にお声がけし,MOU団体からの渡航参加を増やす努力を行っています。上述のように準国際学会としての役割を担っている日本心理学会学術大会が,名実ともに,一層国際的な大会になることを期待しています。

 

さて,昨年の大会は,阪神淡路大震災の被災地である神戸で実施しました。そして来年の2025年度大会は東日本大震災の被災地である仙台で開催する予定です。今年の開催地・熊本も,2016年に発生した大きな地震の被害から復興しつつあるところです。多くの皆様にご来場いただくことで,熊本の復興に少しでもお役に立てればと願っています。

 

日本心理学会第88回大会実行委員会
委員長  阿部 恒之
(東北大学教授・日本心理学会理事長)