講演情報

[101-1105]ハンドセラピィ教育の標準化と持続可能な基盤構築 ーe-HATシステムの開発と実践を通してー
講師:斎藤 和夫 先生 (東京家政大学リハビリテーション学科作業療法学専攻)
画像診断装置やVRなど最新機器の臨床応用
講師:成田 大地 先生(相模原協同病院リハビリテーション室)
ハンドセラピストの可能性〜知識と技術の融合
講師:蓬莱谷 耕士 先生(関西医科大学リハビリテーション学部作業療法学科)
Science and Sustainabilityにかける想い
講師:中西 理佐子 先生(横浜南共済病院リハビリテーション科)

座長:中西 理佐子 先生(横浜南共済病院リハビリテーション科)、斎藤 和夫 先生(東京家政大学リハビリテーション学科作業療法学専攻)

ハンドセラピィ教育の標準化と持続可能な基盤構築 ーe-HATシステムの開発と実践を通してー
斎藤 和夫 先生 (東京家政大学リハビリテーション学科作業療法学専攻)

ハンドセラピィは,専門的知識と高度な技術を要する分野であるが,教育内容の標準化と体系化には依然として多くの課題が存在している.本講演では,ハンドセラピィ教育の質向上と持続可能な教育基盤の構築を目的として開発した,オンラインと対面を融合させた支援システム「e-Hand Therapy(e-HAT)」について報告する.e-HATは,エビデンスに基づく教材をクラウド上で配信し,ウェブ会議システムを活用した遠隔指導,さらに対面・オンラインによる定期的な勉強会や技術指導を組み合わせた,柔軟性と持続性を備えたハイブリッド型教育支援システムである.これにより,時間や場所に制約されることなく,幅広い学習機会を提供することを目指している.対象は,手外科領域に携わる作業療法士10名とし,導入前後の学術活動実績や自由記述による意見をもとに有用性を検討した.結果,学習意欲の向上,知識の共有促進,臨床応用力の強化において効果が認められたほか,教育機会の地域格差是正や自己主導型学習の促進にも寄与する可能性が示唆された.さらに,参加者からは,日常業務と並行して無理なく学習を継続できた点が高く評価された.今後は,より簡便なアクセス環境の整備に加え,教育効果を客観的に把握するための標準化された評価指標の構築を進め,ハンドセラピィ教育の標準化と次世代セラピスト育成に向けた持続可能な教育基盤の確立を目指していきたい.


画像診断装置やVRなど最新機器の臨床応用
成田 大地 先生(相模原協同病院リハビリテーション室)

ハンドセラピィは,手や上肢の損傷や障害に対し,Useful Hand(実際の生活で使える手)の獲得を目指するための包括的な治療法である.またハンドセラピィの本質は,学術的な研究や技術の革新によって体系化された知識や技術を基盤とし,対象者の生活や個別性に応じて,創造的に応用し,対象者の生活を再構築する事とされている.
近年の科学的発展として,評価では超音波画像診断装置(エコー)や動体レントゲン撮影などが臨床に多く用いられている.機器の導入により,拘縮や痛みの評価において,基盤とされている組織の構造や修復過程を考慮した評価方法や統合的な解釈に加え,問題点をより明確に把握できるように変化してきており,治療の対象部位の選定や,関節可動域訓練,筋力強化,スプリント療法の選択に役立っている.
機能回復訓練においては,上肢機能に着目した訓練だけでなく,脳機能に注目した治療法が導入されてきており,運動学習や感覚入力(触覚・視覚)を活用したフィードバック,運動イメージの修正訓練などが行われている.筆者が橈骨遠位端骨折患者に対して行ったバーチャルリアリティ(VR)を用いた治療においても,疼痛の改善効果が認められている.今回,評価・治療における最新機器の臨床での応用などについて,自身の臨床での経験を踏まえてお話する.


ハンドセラピストの可能性〜知識と技術の融合
講師:蓬莱谷 耕士 先生(関西医科大学リハビリテーション学部作業療法学科)

ハンドセラピィの目標は,手の機能改善と生活する手の再獲得という二本柱であることは,広く知られている.生活動作と器官としての手は,その精緻な機能によって密接に結び付いており,手の機能障害によりこの関係は破綻する.
そのため,従来,機能訓練を通して生活動作の再構築を図ってきた.しかし,機能が回復しても,生活動作へと十分に結びつかない例も少なくない.そこには心理的側面が大きく関与しており,我々の調査でも,生活動作の困難感の一因として心理面の影響が確認された.したがって,ハンドセラピィにおいても課題指向型アプローチの導入が求められるが,その実践に関する報告はまだ多くない.
これまでのハンドセラピィは,機能解剖(生体力学)に基づくアプローチが主流であった.これらの研究は依然として重要であるが,手が有す精緻な機能性を考慮すると,「手のパフォーマンス」という視点も不可欠である.このパフォーマンスには脳の関与が不可避であり,より深い神経生理学的検討が今後の課題となるだろう.
私たちが目指すべきは,単に「生活ができる手」ではなく,「なめらかに動き,生活と調和する手」の獲得である.この目標を実現するためには,手外科医のみならず,理学療法士,神経科学者,エンジニアといった多分野の専門家との協業が必要である.こうした学際的な協業により,より包括的かつ発展的なハンドセラピィが可能となる.
“For the patients”という理念のもと,研究成果と臨床実践が融合することで,ハンドセラピィの新たな可能性が拓かれる.