講演情報

[10101-05-01]成人期ASD者の家事困難の要因と支援の工夫

*水野 健1,2、川畑 啓1、五十嵐 美紀1,2、横井 英樹1,2 (1. 昭和医科大学附属烏山病院、2. 昭和医科大学発達障害医療研究所)

キーワード:

自閉スペクトラム症/障害、家事、精神科デイケア

【目的】成人期の自閉スペクトラム症者(以下,ASD)は知的障害の併存がない場合も多くの生活上の困りごとを抱え,家族の支援に頼っているものも少なくない(Howlin et al.,2004).当院デイケアの利用者の多くも就労やデイケアへ通所し社会参加をしている場合でも,家庭での生活は親からの支援に依存していた.我々は親亡き後の自立した生活を想定し認知的介入による自立促進プログラムを実施し,心構えや認識に介入を行ってきた.しかし,実行までに至らないことも多く,その対応に苦慮してきた.特に炊事,洗濯,掃除などの家事は習慣化することが難しかった.これらに対して,ASDの特性を踏まえた支援方法や取り組むための工夫について検討する必要があった.よって,本報告の目的はASD者の家事に関する困難さをまとめ,今後の支援の参考としていくことである.当院の倫理審査委員会の承認(承認番号:2023-159-A)を受けて実施した.
【方法】 対象は当院で実施しているASDを対象とした自立促進プログラムで家事の困難さを扱った際のディスカッションでの発言をテキストデータとした.KJ法を参考にカテゴリー化を行いその関係性について検討した.参加者は3グループ合計25名(男性18名/女性7名)で,平均年齢は33.3±8.8歳で全検査IQの平均は105.3±17.0,社会参加の状況は,就労中が16名でデイケア通所中は9名であった.
【結果】<家事はASD者の苦手な要素が満載><ASD特性による認知・思考><ASD特性から派生する疲労やストレス><本人を取り巻く状況>の4つのカテゴリーとなった.「家事は嫌いな感覚刺激が多い上にマルチタスクであり,そもそも苦手であることに加え,変化を嫌うことや変えた後の生活の想像がつきにくいため,新たに取り組むこと自体に抵抗がある.また,新たに取り組もうとしても不器用さや環境の問題や生活上での疲労により取り組めないこともある.その一方で,変化させないことで安心安定感を得ているという側面もあるため,結局実行するのは難しい」とまとめることが出来た.
【考察】成人期ASD者の家事への取り組みを難しくさせているものとして,ASDの特性だけでなく,それから派生した疲労やストレスの影響があることが明らかとなった.家事動作のみを評価するのではなく,連続した生活の中の一部としてとらえた全体的なアセスメントが必要である.既存のプログラムによるストレスや疲労の軽減への取り組みと共に,不器用さを補うための道具の導入や環境面への介入も必要である.