講演情報

[10101-05-05]高次脳機能障害を呈した就労世代の悪性神経膠腫患者に対して,退院後の社会復帰方法に着目して退院支援を行った事例

*黒崎 空1、佐々木 秀一1、上田 綾子1、軽部 敦子1、神保 武則1 (1. 北里大学病院 リハビリテーション部)

キーワード:

脳腫瘍、退院支援、社会復帰

【緒言】悪性神経膠腫患者は,高次脳機能障害などの症状により,治療終了後の社会復帰に困難を生じる.また,若年の悪性神経膠腫患者は,社会復帰を視野に入れた綿密な介入を要するにも関わらず,治療終了後にリハビリテーションを受けることが困難な症例も存在する.そのため,急性期病院における社会復帰に向けた支援は重要な課題である.今回,高次脳機能障害が残存した悪性神経膠腫患者に対して,作業療法で社会復帰に向けた評価や地域資源の紹介を行った結果,退院後に地域移行を達成した症例を報告する.

【症例紹介】50歳台女性,職業はインテリアコーディネーターであった.左前頭葉退形成性乏突起膠腫(GradeⅢ)に対して,開頭腫瘍摘出術,術後にテモゾロミドによる化学療法,60Gyの放射線療法のために8週間の入院加療が行われ,入院中に作業療法介入が実施された.術後の作業療法評価では,運動麻痺は軽度であった.TMT-JはAが131秒,Bが実施不可,FABが11点,SLTAの語想起課題は2語であった.さらに観察所見上も思考が遅くてまとまりがなく,注意障害や遂行機能障害を認めた.また,言語聴覚士の評価にて超皮質性運動失語を認めた.本発表に際し症例より書面にて同意を得た.

【経過】介入初期は机上課題による高次脳機能練習やADL練習,現職復帰を考慮してパソコンを用いた事務作業練習を実施した.しかし,作業速度の低下や遂行機能障害は残存したことから現職復帰は困難と考えられた.そこで,治療が半分を経過した時点で作業療法面接を実施したところ,患者も作業能力の低下を自覚しており,「復職は困難だが何かの形で社会と繋がりたい」と希望した.そのため,残りの期間において作業療法で創作作業や事務作業などを実施し,本人の得意な作業内容を確認した.中でも創作活動はミスが少なく,作業速度も許容範囲内であった.また,言語聴覚士などの他職種と適応のある社会資源について協議した上で,作業療法中に社会資源の情報を供覧した.症例からは,「退院してからは作業所で創作活動を行いたい」という希望が聴取された.

【結果】退院時評価では,TMT-JはAが42秒,Bが126秒,FABが14点であり,注意障害や遂行機能障害は改善したものの残存した.退院後,患者は情報提供された施設を訪問し,退院5ヶ月後に近隣のリハビリ施設の利用に至った.その後,アルバイトなどを経て,治療4年後もリハビリ施設の系列の地域活動支援センターの利用を続けている.

【考察】術後悪性神経膠腫患者に対する急性期の作業療法において,本人の希望を鑑みた実動作評価や地域資源の紹介といった地域移行支援を実施した結果,退院後の地域資源の利用,長期的な地域移行につながった.悪性脳腫瘍患者に対する,入院作業療法における地域移行支援は,退院後に本人が希望する生活基盤への移行に有用な可能性が示唆された.