講演情報
[10201-05-01]楽しみを創出した作業を経験したことで麻痺手の疼痛が緩和した脳卒中事例
*渡邉 凪紗1、森山 康平1、田中 友彬1 (1. 鶴巻温泉病院)
キーワード:
脳卒中、痛み、作業、楽しみ
【序論】
脳卒中後の肩関節痛を訴える患者は60~70%に達し,その治療法には多くの選択肢が存在する.本報告では,右上肢の疼痛を訴える事例に対して作業活動の提供した結果,楽しみの創出により疼痛が軽減したため報告する.本研究は,当院臨床研究倫理審査小委員会にて承認を得ている.
【事例紹介】
事例は80代の女性で,心原性脳塞栓症を発症し,発症から28病日経過した.趣味は編み物と裁縫を行っていた.既往歴は緑内障による視覚障害があった.認知機能は,MMSE21/30点,運動麻痺はFMA上肢項目25/66点であった.疼痛の評価では,NRS右肩,肘,手関節8/10,PCS46/54点,SF-MPQ-2では持続性37,間欠性7,神経障害性10,感情的表現25と器質的,心因的な疼痛が認められた.作業機能障害はCAODで59/112点で,疼痛や入院生活により満足感や充実感が得られていなかった.FIMは,71/126点(運動項目45点,認知項目26点)であった.
【方法・経過】
第37病日,肩甲骨周囲筋や腰背部筋のストレッチ中心に介入したが,手関節の疼痛は軽減したものの,PCSやSF-MPQ-2での疼痛の変化は見られず,リハビリ拒否や意欲低下が見られた.発言内容は「リハビリか…やだな」等の発言が聞かれた.
第55病日,疼痛への執着と活動性の低下を踏まえ,作業活動を通じて成功体験を積むことを目的に片手で実施可能な馴染みのある貼り絵を提供した.事例の視覚障害に配慮するため,午後に作業活動を実施し,黒の台紙を使用する等コントラスト調整も行った.最初は左手のみで行い,ちぎりやすい大きさで実施した.作業中,意欲的な発言が聞かれた時には両手動作を促し,ちぎるサイズを小さくした.結果,作業を行えたことで,「手芸が楽しいの」等の発言や日常生活で笑顔が見られるようになった.疼痛の軽減に伴い,リハビリへの意欲が上がり,ADL練習等が行えるようになった.
【結果】
第75病日,運動麻痺に変化はなかったが,NRS右肩関節3/10,肘,手関節1/10,PCSは2点,SF-MPQ-2では持続性2,間欠性,神経障害性,感情的表現0と疼痛が軽減した.CAODは18点に改善し,貼り絵が楽しみとなり,充実感が得られた.また,FIMは80点(運動項目45点,認知項目26点)に改善した.
【考察】
今回の事例において,作業活動を提供することで疼痛の軽減が得られた要因として,視覚障害,上肢機能に考慮した作業の難易度調節が影響を与え,疼痛を忘れる時間を持つことができた可能性が考えられる.また,作業活動を通じて得られた成功体験に加え,他者からの賞賛を通じて達成感を感じることが,事例の笑顔を増加させ,リハビリテーションへの意欲を引き出す一因となり,活動性の向上に寄与した可能性がある.
脳卒中後の肩関節痛を訴える患者は60~70%に達し,その治療法には多くの選択肢が存在する.本報告では,右上肢の疼痛を訴える事例に対して作業活動の提供した結果,楽しみの創出により疼痛が軽減したため報告する.本研究は,当院臨床研究倫理審査小委員会にて承認を得ている.
【事例紹介】
事例は80代の女性で,心原性脳塞栓症を発症し,発症から28病日経過した.趣味は編み物と裁縫を行っていた.既往歴は緑内障による視覚障害があった.認知機能は,MMSE21/30点,運動麻痺はFMA上肢項目25/66点であった.疼痛の評価では,NRS右肩,肘,手関節8/10,PCS46/54点,SF-MPQ-2では持続性37,間欠性7,神経障害性10,感情的表現25と器質的,心因的な疼痛が認められた.作業機能障害はCAODで59/112点で,疼痛や入院生活により満足感や充実感が得られていなかった.FIMは,71/126点(運動項目45点,認知項目26点)であった.
【方法・経過】
第37病日,肩甲骨周囲筋や腰背部筋のストレッチ中心に介入したが,手関節の疼痛は軽減したものの,PCSやSF-MPQ-2での疼痛の変化は見られず,リハビリ拒否や意欲低下が見られた.発言内容は「リハビリか…やだな」等の発言が聞かれた.
第55病日,疼痛への執着と活動性の低下を踏まえ,作業活動を通じて成功体験を積むことを目的に片手で実施可能な馴染みのある貼り絵を提供した.事例の視覚障害に配慮するため,午後に作業活動を実施し,黒の台紙を使用する等コントラスト調整も行った.最初は左手のみで行い,ちぎりやすい大きさで実施した.作業中,意欲的な発言が聞かれた時には両手動作を促し,ちぎるサイズを小さくした.結果,作業を行えたことで,「手芸が楽しいの」等の発言や日常生活で笑顔が見られるようになった.疼痛の軽減に伴い,リハビリへの意欲が上がり,ADL練習等が行えるようになった.
【結果】
第75病日,運動麻痺に変化はなかったが,NRS右肩関節3/10,肘,手関節1/10,PCSは2点,SF-MPQ-2では持続性2,間欠性,神経障害性,感情的表現0と疼痛が軽減した.CAODは18点に改善し,貼り絵が楽しみとなり,充実感が得られた.また,FIMは80点(運動項目45点,認知項目26点)に改善した.
【考察】
今回の事例において,作業活動を提供することで疼痛の軽減が得られた要因として,視覚障害,上肢機能に考慮した作業の難易度調節が影響を与え,疼痛を忘れる時間を持つことができた可能性が考えられる.また,作業活動を通じて得られた成功体験に加え,他者からの賞賛を通じて達成感を感じることが,事例の笑顔を増加させ,リハビリテーションへの意欲を引き出す一因となり,活動性の向上に寄与した可能性がある.