講演情報

[10201-05-02]急性硬膜下血腫による記憶障害と易怒性に付随した問題行動に対して段階的なメモリーノートの導入と環境設定による支援を行った事例

*向出 秀平1、廣瀬 卓哉1,2、杉浦 隼太1、姫田 大樹1,3、丸山 祥1,3,4 (1. 医療法人社団健育会湘南慶育病院、2. 吉備国際大学保健福祉研究所準研究員、3. 東京都立大学大学院人間健康科学研究科、4. 北里大学医療衛生学部リハビリテーション学科作業療法学専攻)

キーワード:

記憶障害、問題行動、メモリーノート、環境整備

【目的】
本報告は,記憶障害と易怒性に付随した問題行動に対して段階的なメモリーノートの導入と環境設定を行い,問題行動の軽減に至った経過を報告する.本報告にあたり対象者より書面にて同意を得た.
【事例紹介】
事例は70歳代の男性で,診断名は左急性硬膜下血腫,環椎jefferson骨折であった.受傷機転は自宅駐車場の屋根からの転落であった.入院当日に開頭血腫除去術が施行され,第31病日に回復期リハ病棟へ転院した.初期評価(第34病日)では,JCS I-2,MMSE 18点,TMT-A 218秒,TMT-B 実施不可,Kohs立方体テスト 11点(IQ 50),NPI-Q(重症度13/30,負担度15/50),FIM 37点(運動19,認知18)であった.著名な記憶障害を認め,頻回に時間や予定を確認する様子がみられ,単独行動による転倒やスタッフへの暴言などの問題行動がみられた.
【方法】
評価結果から,病態に起因した記憶障害によって病棟生活への適応が困難になっているものと解釈した.本事例は几帳面な性格であり,入院前はExcelで家計簿をつける習慣があった.そのため,記憶障害の代償手段として,メモリーノートの導入が有用であると考えた.まずは,セラピストがノートに必要な情報を記録しそれを対象者が書き写すことで,ノートの導入を図った.次に,幕張版メモリーノートを用いて,リハビリ時間や家族の面会予定などの長期的な予定を記録し,実用的なメモの活用を促した.最終的には,日常的にノートを記録し,リハビリ時に内容を振り返りながら必要な情報を加筆することを支援した.さらに,事例の安全な生活環境を確保することを目的に環境調整を行った.具体的には,病室をナースステーションの前に移動し,スタッフが事例の動きを把握しやすくした.さらに,肘掛け椅子の設置や手の届く範囲への机の配置を行い,安全に過ごせるようにした.他職種と情報共有を行い,事例の病状や接し方に関する理解を深めるとともに,安静度を段階的に拡大した.
【結果】
再評価(第70病日)では,MMSE 30点,TMT-A 91秒,Kohs立方テスト 57点(IQ 80),NPI-Q(重症度 5/30,負担度 5/50)と,FIM 94点(運動71,認知23)となった.スタッフに対する問題行動がみられなくなり,リハビリの時間には自ら病室前で待機するなどの予定管理が可能となった.
【考察】
段階的にメモリーノートを導入したことにより,記憶障害と易怒性がある本事例に対しても,メモの使用を効果的に促すことができた可能性がある.さらに,環境調整によって安全な生活環境を確保したことは,事例が病棟生活に適応することを後押ししたものと考えられた.これらの支援は,病態に起因した記憶障害によって生じる不安や混乱を取り除くことに貢献し,問題行動の軽減に寄与したものと考えられた.