講演情報
[10201-05-03]頚髄症性脊髄症による上肢の不全麻痺と重度の痺れを呈した事例に対して複合的な電気刺激療法とADOC-Hを併用した作業療法実践
*土岐 美香莉1、廣瀬 卓哉1,2、姫田 大樹1,3、山岡 洸1、丸山 祥1,3,4 (1. 湘南慶育病院 リハビリテーション部、2. 吉備国際大学保健福祉研究所準研究員、3. 東京都立大学大学院人間健康科学研究科、4. 北里大学医療衛生学部リハビリテーション学科作業療法学専攻)
キーワード:
頚髄症、機能的電気刺激、ADOC-H
【目的】
本報告は,頚髄症性脊髄症(CSM)による上肢の不全麻痺および重度の痺れを呈した事例に対し,しびれ同調TENS(西ら, 2023)およびFinger Equipped Electrode-Electrical Stimulation(FEE-ES)などの複合的な電気刺激療法に,ADOC-H を併用した作業療法の実践経過とその臨床的意義を報告する.
【事例紹介】
事例は70歳代女性で,診断名はCSMであった.数ヶ月前より左上肢の痺れが出現し,未治療のまま四肢の脱力が進行していた.今回,転倒を契機に入院し,椎弓形成術(C3-6)を施行後,回復期リハ病棟に転院となった.病前のADLは自立しており,夫の介護と家事全般を担っていた.本報告について事例より書面にて同意を得た.
【方法】
初期評価(第39病日),上肢機能(右/左)は,STEF:75/22,握力:12.4kg/測定不可,MMT:両上肢は概ね4レベル,左の手関節伸筋・母指対立筋は2レベルであった.上肢の痺れはNRS:8–10,COPM「身辺動作の自立」重10/遂2/満1,「料理等の家事」重8/遂1/満1,Quick DASH:機能障害88.6点,仕事100点 ,FIM:82点(運動52点,認知30点)上肢機能障害と痺れによる生活への影響が顕著であった.介入は,痺れの増強を理由として上肢機能訓練が困難であったため,しびれ同調TENSを導入した.即時的に痺れの軽減(NRS 1–2)が確認され,積極的な上肢機能訓練が可能となった.さらに,左手関節伸筋および母指対立筋の筋力低下に対して FEE-ES を適用し,単関節運動(手関節背屈・母指対立 各30回×5セット)を反復した. また,CSMによる長期の機能障害に起因した患肢の不使用と身辺動作に依存的な様子が観察されたため,ADOC-H を用いて日常生活での患肢の使用を促した.具体的には,患肢を使用できる場面を事例と協働で選定し,環境調整や使用方法を話し合いながら決定することで行動変容を支援した.
【結果】
再評価(第97病日)では,上肢機能はSTEF 91/64,握力 12.4kg/2.3kg,MMT:左手関節伸筋・母指対立筋 3レベルへと改善した.上肢の痺れは消失した(NRS 0).COPM「身辺動作の自立」遂行9/満足9,「料理等の家事」遂7/満8,Quick DASH:機能障害20.5点,仕事12.5点,FIM:122点(運動87点,認知35点)であった.
【考察】
本事例では,しびれ同調TENS による即時的・長期的な痺れの管理と,FEE-ES を用いた筋力低下部位に焦点を当てた介入が,上肢機能の改善に影響したものと考えられた.さらにADOC-H を用い,患肢の具体的な使用場面を共有したことは,ADLでの患肢の実用的な使用を促進した可能性がある.
本報告は,頚髄症性脊髄症(CSM)による上肢の不全麻痺および重度の痺れを呈した事例に対し,しびれ同調TENS(西ら, 2023)およびFinger Equipped Electrode-Electrical Stimulation(FEE-ES)などの複合的な電気刺激療法に,ADOC-H を併用した作業療法の実践経過とその臨床的意義を報告する.
【事例紹介】
事例は70歳代女性で,診断名はCSMであった.数ヶ月前より左上肢の痺れが出現し,未治療のまま四肢の脱力が進行していた.今回,転倒を契機に入院し,椎弓形成術(C3-6)を施行後,回復期リハ病棟に転院となった.病前のADLは自立しており,夫の介護と家事全般を担っていた.本報告について事例より書面にて同意を得た.
【方法】
初期評価(第39病日),上肢機能(右/左)は,STEF:75/22,握力:12.4kg/測定不可,MMT:両上肢は概ね4レベル,左の手関節伸筋・母指対立筋は2レベルであった.上肢の痺れはNRS:8–10,COPM「身辺動作の自立」重10/遂2/満1,「料理等の家事」重8/遂1/満1,Quick DASH:機能障害88.6点,仕事100点 ,FIM:82点(運動52点,認知30点)上肢機能障害と痺れによる生活への影響が顕著であった.介入は,痺れの増強を理由として上肢機能訓練が困難であったため,しびれ同調TENSを導入した.即時的に痺れの軽減(NRS 1–2)が確認され,積極的な上肢機能訓練が可能となった.さらに,左手関節伸筋および母指対立筋の筋力低下に対して FEE-ES を適用し,単関節運動(手関節背屈・母指対立 各30回×5セット)を反復した. また,CSMによる長期の機能障害に起因した患肢の不使用と身辺動作に依存的な様子が観察されたため,ADOC-H を用いて日常生活での患肢の使用を促した.具体的には,患肢を使用できる場面を事例と協働で選定し,環境調整や使用方法を話し合いながら決定することで行動変容を支援した.
【結果】
再評価(第97病日)では,上肢機能はSTEF 91/64,握力 12.4kg/2.3kg,MMT:左手関節伸筋・母指対立筋 3レベルへと改善した.上肢の痺れは消失した(NRS 0).COPM「身辺動作の自立」遂行9/満足9,「料理等の家事」遂7/満8,Quick DASH:機能障害20.5点,仕事12.5点,FIM:122点(運動87点,認知35点)であった.
【考察】
本事例では,しびれ同調TENS による即時的・長期的な痺れの管理と,FEE-ES を用いた筋力低下部位に焦点を当てた介入が,上肢機能の改善に影響したものと考えられた.さらにADOC-H を用い,患肢の具体的な使用場面を共有したことは,ADLでの患肢の実用的な使用を促進した可能性がある.