講演情報
[10301-04-02]行動変容モデルを用いて食事場面での麻痺手の実用性を高めた症例
*江口 遼祐1、榎本 光彦1、宇都宮 裕人1 (1. イムス横浜東戸塚総合リハビリテーション病院)
キーワード:
行動変容、MAL、食事
【はじめに】重度麻痺患者では,ADLにおける麻痺手の参加が少ないとされる.本症例も基本動作・ADLは自立していたが,重度右上肢麻痺により麻痺手の使用頻度が低下していた.そこで,麻痺手の使用促進を目的に麻痺手の使用状況を日々記録することで変化に気づきを促す麻痺手日記を導入し,生活行為に麻痺手を参加させる行動変容モデルに基づいた介入を行った.その結果,希望していた「食事時の麻痺手使用」の実現に繋がったため報告する.本発表に関して,本人より口頭での同意を得ている.【症例紹介】50歳代後半女性で,明るく穏やかな性格.病前のADL・IADLは自立.介護福祉士として就労し,家庭内では家事全般を行っていた.【評価】Br.stage(右):上肢Ⅱ,手指Ⅱ,下肢Ⅱ,FMA:7/60, MAL(AOU):0,21,MAL(QOM):0.21,MMSE-J:30点.食事時は,机上に右上肢を保持できず麻痺手による器の把持が困難であった.ホープは「麻痺手を補助手として使用し食事が出来るようになりたい」との希望があり,麻痺手機能の改善に向けて電気刺激療法を併用した訓練を実施した.【介入経過】介入初期には,麻痺手日記を用いて使用状況を毎日症例と振り返り,意識の変容を促した.その結果,使用頻度の客観的指標は徐々に向上したが,動作の質は実生活レベルには達していなかった. 次第に麻痺手の使用が習慣化し,自己効力感の向上がみられた.また,食事以外の生活行為でも麻痺手の参加場面を増やし,困難が生じた際はセラピストと問題点と解決策を検討,適宜フィードバックを行ったことで,症例は麻痺手の変化を実感し,日常生活で継続的に使用できるようになった.【結果】Br.stage(右):上肢Ⅲ,手指Ⅲ,下肢Ⅳ,FMA:14/60,MAL (AOU): 1,29,MAL(QOM) :1.86.食事場面では,麻痺手が机上から落ちることなく器の固定が可能となり,左手での摂取が円滑となった.「食べるのが楽になって嬉しい」と語り,主観的満足感も向上した.【考察】van der Leeらによると,慢性期脳卒中におけるMALの最小臨床上重要差(MCID)である0.5点以上の改善を認めた.本症例では,本人の希望に沿った機能訓練と行動変容アプローチにより,麻痺手の不使用が改善されたと考える.