講演情報

[10301-04-04]興味に基づく作業選択を行い,抑うつ症状の軽減へ繋がった一事例

*野村 佳乃子1、渡部 喬之2,3、嘉部 匡朗1,3、相合 菜月2 (1. 昭和医科大学横浜市北部病院、2. 昭和医科大学藤が丘リハビリテーション病院、3. 昭和医科大学保健医療学部リハビリテーション学科作業療法専攻)

キーワード:

高齢者、うつ状態、作業選択

【はじめに】老年期うつ病患者は年々増加傾向にあり,若年発症のうつ病と比較して特徴的な臨床症状があると言われている.今回,身体症状を訴え食事量が低下し低ナトリウム血症にて急性期病院に入院した高齢者症例を担当し,うつ病ガイドラインに沿った対応をした結果,活動量増加や症状改善に繋がったため報告する.報告に際し,症例から了承を得ている.【症例紹介】70代,女性,BMI 14.42kg/m2.誘因なく食欲不振が出現し,原因精査を目的に当院神経内科入院となった.入院当初より嚥下障害や抑うつ症状を認め,パーキンソン症候群を疑いL-DOPAによる治療が行われたが反応性乏しく,器質的疾患は明らかにならなかった.老年期うつ病やレビー小体型認知症が疑われ21病日目に当院メンタルケアセンターに転科となった.
【作業療法評価】意識清明,認知機能はMMSE28点,身体的症状に対する訴えが多く,希死念慮もあった.身体機能に関して,関節可動域制限はなく,筋強剛や安静時振戦も認められなかったが,頸部や肩甲帯の疼痛の訴えが強く数分の座位保持も困難であった.院内ADLにおいて,移動は付き添いを希望,食事は主食が粥で副食がムース形態であり,摂取量は数口~3割とむらがあった.リハビリ介入に拒否はないが,リハビリ以外の時間はベッド臥床中心の生活となっていた.入院前は2人の息子と暮らし,家事をしながら手芸やガーデニングを楽しむ生活をしていた.
【介入方針及び作業療法介入計画】症例は,頸部や肩甲帯の疼痛に加え,日中臥床傾向であるため,身体的側面に思考が向きやすく,不安や焦燥感を強めていると考えた.また,作業療法うつ病ガイドラインでは,急性期~回復前期の回復段階に相当することが予測され,まずは疼痛へのアプローチで関係性を構築しながら,日中の活動量増加に意識が向けられるよう趣味や嗜好を取り入れた介入計画を立てた.
【介入経過】7~10病日目は頸部や肩甲帯のリラクゼーション,ストレッチ指導を中心に実施,介入後は疼痛軽減するとの発言を得られた.11~17病日目は座位での軽作業を実施,趣味である花に関連のある課題を提供し,30分程度の座位保持が可能となり,笑顔も見られるようになった. 21~42病日目は,メンタルケア病棟に転棟し,退屈感に対して自室で一人でも行える軽作業を提供,さらに集団療法参加を促し他者交流機会増加を図った.
【結果】43病日目,疼痛は消失し,1時間以上の座位保持可能となった.また,余暇時間には軽作業や他者交流といった日中活動量も増加した.ADLにおいて,食事は常食10割摂取となり摂食量や体重(BMI 15.78kg/m2)も増加した.
【考察】本人の趣味や嗜好に基づいた作業選択を提案,実施したことで身体症状への囚われの軽減,座位耐久性の向上と食事摂取量の向上に繋がったと考える.