講演情報

[10305-10-01]脳卒中後慢性期上肢麻痺に対するボツリヌス毒素A型施注後にAI統合型筋電図駆動ロボットハンドを使用した一例

*小竹 克郁1、山岡 洸1,2、廣瀬 卓哉1、丸山 祥1,3,4、姫田 大樹1,3 (1. 湘南慶育病院、2. 北里大学大学院医療系研究科、3. 東京都立大学大学院人間健康科学研究科、4. 北里大学医療衛生学部リハビリテーション学科作業療法学専攻)

キーワード:

ボツリヌス療法、ロボット、課題指向型訓練

【はじめに】脳卒中治療ガイドライン2021では脳卒中後の痙縮に対してボツリヌス療法を実施することが推奨されている.また,近年AI統合型筋電図駆動ロボットハンド(MELTz)を使用し手指機能の改善例が報告されている(Murakami Y, 2023).今回,脳卒中後の慢性期上肢麻痺患者に対して,ボツリヌス療法とMELTz®を併用した集中的作業療法を実施した.その結果,手指運動機能の向上と日常生活における麻痺手の使用が増加し目標の達成に至ったため以下に報告する.
【症例紹介】症例は発症後9カ月経過した50歳代の女性.診断名は脳梗塞であり左片麻痺を呈していた.今回ボツリヌス治療とリハビリ目的で地域包括ケア病棟に入院となった.初期評価はFMA 32/66点(A:20,B:5,C:7,D:0), MASは肘屈筋1, 手関節1 ,手指屈筋1, BBTはLt10個, ARAT:11/57,MALはAOU:0.5, QOM:0.5点,Arm Activity measure(以下ArmA)セクションA:7/32セクションB:49/52点であった.課題指向型訓練では物品操作を数回行うと手指屈筋の筋緊張が高まり頻回にストレッチを要した.目標は洋服を畳めるようになることとした.本報告について症例から書面で同意を得た.
【介入方法】ボツリヌス毒素は入院2日目に橈側手根屈筋,尺側手根屈筋,浅指屈筋,深指屈筋に25単位ずつ施注された.施注後7日間はストレッチ中心に介入した(60分/日).8日目から課題指向型訓練(60分/日)に加えMELTzを自主訓練(30分/日)として15日間実施した.課題指向型訓練はコーンやブロック,を使用したgripやpinch 課題を難易度調整しながら実施した.MELTzの設定は,アクティブ指示モードのグーパーリラックスを合計30 分実施した.
【結果】FMA 40/66点(A:23,B:7,C:10,D:0),MAS肘関節屈筋1手関節0,手指屈筋0,BBT: Lt24個,ARAT:25/57点となり筋緊張の減弱と手指機能向上を認めた.MALでは AOU:2.2,QOM:2.9点でArmAはセクションA:3/32,セクションB:40/52点となった.手指の筋緊張が軽減したため反復的な課題指向型訓練が行えるようになり,日常生活に向けた実践的な練習も可能となった.結果として,麻痺手の使用頻度の増加と目標としていた洋服を畳む動作が可能となった.
【考察】今回ボツリヌス療法により手指屈筋群の筋緊張の軽減を図ったことで, MELTzによる手指の機能訓練を効率的に実施できた可能性がある.その結果,手指の機能改善ならびに物品操作能力の向上につながり,積極的な課題指向型訓練の導入に至った. これらの介入の組み合わせは,症例の日常生活における麻痺手の使用頻度の向上ならびに目標の達成に貢献したものと考えられた.