講演情報

[10305-10-02]高次脳機能障害を呈した中脳梗塞事例におけるリハビリテーション介入と経過

*篠田 沙央理1、青柳 美空1、渡部 喬之1,2 (1. 昭和大学藤が丘リハビリテーション病院 リハビリテーションセンター、2. 昭和大学保健医療学部リハビリテーション学科作業療法学専攻)

キーワード:

脳血管障害、高次脳機能障害、回復期リハビリテーション

【はじめに】 中脳は視覚や聴覚の情報処理,運動調整,覚醒維持など多様な機能を担うが,中脳梗塞は全脳梗塞の中でも稀であり,高次脳機能障害の報告は少ない.今回の目的は,中脳特有の症状の出現と,それに対するリハビリテーション介入の経過を報告することである.尚,本症例の報告に際し患者の同意を得ている.【症例紹介】 70代男性.右中脳被蓋野のラクナ梗塞.17病日に当院回復期病棟に転院.病前は妻と2人暮らしでADLは自立し,サッカークラブに通うなど活動的であった.【作業療法評価】 身体機能は軽度麻痺,中等度の失調,軽~中等度の感覚鈍麻,バランス低下,姿勢保持障害,歩行時の易転倒性,複視を認めた.認知機能はMMSE 27/30点と保たれていたが,注意機能はMARS 44/110点,CAT-Rの下位項目でカットオフ値を下回った.遂行機能障害,記憶障害,病識低下,プロソディー障害,発語失行が認められた.感情表出は乏しく,JSS-DEではうつ7.14,情動障害6.68を示した.FIM-tは65点で最小介助や声掛けを要した.【介入方針と内容】 本症例は大脳脚や内側縦束の損傷が比較的軽度であったため,麻痺や眼球運動障害は改善が期待できること,一方で高次脳機能障害は残存する可能性があり積極的に介入する方針とした.20病日からキャッチボールやペグなどを導入し,注意の持続や空間認識の向上を図った.60病日からは抹消課題などの分配的な注意課題を強化し,70病日からは生活場面を意識した段差練習や二重課題を行った.聴覚課題は入院初期から単語の復唱や質疑応答課題を行い,言語理解と反応速度の向上を図った.また,自発的行動の促進のために関心のある活動やADLの自立を促した.【結果】 身体機能は改善し,フリーハンド歩行が可能となった.複視も改善した.注意障害はMARS 61/110点と改善.感情障害はJSS-DEでうつ2.9,情動障害3.55と改善し,笑顔や発語量の増加が見られた.FIM-tは102点と良好に回復したが,情報処理の低下や病識低下が残存し,基本的に付き添いを要した.81病日に自宅退院した.【考察】 西尾ら(2015)は,中脳にはドパミン神経系が豊富に存在し,中脳皮質系や辺縁系を介して意欲・報酬系や認知機能と関連していると述べている.本症例では感情障害や遂行機能障害は改善したが,情報処理の低下や病識低下が残存した.これは中脳被蓋野損傷によりドパミン神経系に影響が及び,注意障害や情動障害,自発的行動低下に関与した可能性がある.視覚や体性感覚の情報処理障害は,リハビリテーションでの運動量の増加や感覚入力の促進が改善に寄与したと考えられる.今後も中脳病変におけるリハビリテーション介入の検討が求められる.