講演情報
[10305-10-03]記憶障害を呈した事例に対する復職を目指した作業療法
*小山 祐矢1、渡部 喬之1,2、内堀 謙吾1,2、片桐 純子1 (1. 昭和大学藤が丘リハビリテーション病院、2. 昭和大学保健医療学部リハビリテーション学科)
キーワード:
脳卒中、高次脳機能障害、社会復帰
【はじめに】今回,クモ膜下出血により記憶障害を主とした高次脳機能障害を呈した50代男性を担当した.復職を希望,目標としていたが注意障害,ワーキングメモリ(以下,WM),記憶障害により復職は困難であった.当院の回復期リハビリテーションで記憶障害の代償手段と問題解決の方法を獲得したことで,当院退院後に復職に至った事例を報告する.【事例紹介】50代男性,クモ膜下出血(WFNS Grade2)の診断であり,発症7病日に両側の前・中大脳動脈領域に梗塞を認めた.麻痺は認めなかったが,高次脳機能障害を呈していた.主訴は復職であり,仕事内容は建築業の事務職であった.発症時,18病日のMRIともに前頭前野眼窩部や脳梁に高信号域を認めた.尚,発表に際し,事例の同意は得ている.【作業療法評価】Fugl-Meyer Assessment上肢運動項目62点と麻痺は軽度であり,基本動作・セルフケアともに自立で可能であった.しかし,病棟で道に迷う,1日のスケジュール管理や安静度の理解・把握が困難といった高次脳機能障害を呈しており,病棟での生活は介助を要していた.特に,聴覚性注意・記憶の低下は顕著に認めており,TMT-A:171秒,B:368秒,標準言語性対連合学習検査(以下,S-PA)では有関係対語7-8-10,無関係対語0-0-1,リバーミード行動記憶検査では13点と低下を認めた.【治療方針】評価結果より情報処理,WMの低下,記憶障害が顕著に出現していたため,自身の高次脳機能障害の把握とそれらを代償する手段の獲得を目指し訓練を実施した.入院当初から退院時まで,高次脳機能のベースである注意機能の向上を目的に訓練を行った.内容はデザインペグ,文章読解問題を実施した.事例が自身の高次脳機能障害の理解が良好になった57病日目より,1日の振り返りとスケジュールの管理を行うためにノートを作成した.88病日から生活内での問題点や不測の事態に備え問題解決の手段が必要と考え,携帯を使用し通勤手段の検索や,休日の役割である昼食のメニューの作成を実施した.【結果】S-PA有関係対語9-9-10,無関係対語0-0-4,リバーミード行動記憶検査では15点と記憶障害は残存していたが,聴覚性注意は向上し,携帯を使用して問題解決やスケジュール管理は可能になった.当院退院時は,一人での通院は困難であったが,その後の経過で通院が可能となり,退院後7ヶ月目で復職に至った.【考察】記憶障害リハビリテーションには,病識の低下が阻害因子となり代償手段の獲得ができないことがある.また,病態への気づきにより意欲の低下やうつ状態になることもあると報告がある(根岸ら,2021).高次脳機能障害を呈した事例の社会復帰は課題が多いと考えるが,事例の病識理解が得られたタイミングで代償手段を導入したことにより,復職に繋げることができたと考える.