講演情報

[10305-10-04]Hunt症候群により平衡機能障害を呈した事例に対する作業療法

*山口 雄士1、渡部 喬之1,2、内堀 謙吾1,2、荻野 春香1 (1. 昭和大学藤が丘リハビリテーション病院 リハビリテーションセンター、2. 昭和大学 保健医療学部 リハビリテーション学科 作業療法学専攻)

キーワード:

平衡機能、体性感覚、感覚統合、身体機能

【序論】Hunt 症候群は顔面神経の膝神経節に潜伏感染した水痘・帯状疱疹ウイルスの再活性化により発症し,顔面神経麻痺と耳介帯状疱疹,眩暈・難聴・耳鳴などの第8脳神経症状を呈する疾患群である.先行研究ではHunt症候群の作業療法実践の報告は少ない.今回Hunt症候群により平衡機能障害を呈した事例への作業療法実践について報告する.
【事例紹介】80代男性.診断名:VZV髄膜炎,Hunt症候群.現病歴は口腔内の痛みと上顎の水疱様の皮疹のため近医を受診.翌朝より脱力感,左顔面神経麻痺,歩行困難を認め前医に緊急入院し,23病日に当院転院となった.入院前ADLは自立し,趣味は草花の観察で屋外での活動が多かった.本発表に際し患者本人から同意を得た.
【転院時作業療法評価】転院時,左末梢性顔面神経麻痺と耳鳴りを伴う左聴力低下を認めた.粗大筋力はMMT5でROM制限はなかった.感覚障害は表在・深部共に異常はなかった.立位バランスは開眼での動揺は軽度だが閉眼では動揺が強く,基本動作・ADLは監視を要した.眼球運動は左方向水平性眼振を認め,上下左右の運動での複視はなかった.平衡機能障害による眩暈症状が顕著であり,頭位転換や体動,加速度のついた動きで誘発され,主観的な症状は瞬時に焦点が合わないとの発言があった.眩暈による日常生活の支障度を自己評価するDHIの評価は26/100点で,重症度は軽度だった.
【作業療法方針と実践】先行研究では,平衡機能障害により前庭覚系,視覚系,体性感覚系の情報入力が中枢で不協調を起こすと述べている(山中,2012).本事例は眩暈の要因として前庭動眼反射の低下していることに加え,開眼と閉眼時の立位バランスに差があることから,前庭系,視覚系,体性感覚系の不協調をきたし,視覚優位の姿勢制御により眩暈を助長していた.事例の平衡機能障害による眩暈症状の改善を目的に作業療法を実践した.方法は,立位でバランスクッションを使用した足部底背屈運動(開眼・閉眼)と、8の字歩行・加減速を伴う歩行を実施し感覚の再統合を促した.また、屋外歩行練習,階段昇降などの応用動作やADL場面での眩暈の有無と,立位バランス評価を適時実施した.
【結果】転院時評価で見られていた眼振は転院翌日より改善がみられ,眩暈は転院後2週間で改善した.DHIスコアは8/100点まで減少し,重症度は障害なしとなった.開眼時と閉眼時の立位バランスの差は改善し,基本動作やADLは自立した.移動は屋外フリーハンド歩行で行い,しゃがみや物持ち歩行となどの応用動作を獲得し転院後32日で自宅退院した.
【考察】本事例の平衡機能障害の症状である眩暈の誘発要因として,前庭系,視覚系,体制感覚系における情報処理の不協調に着目した.開眼と閉眼,加減速を伴う動作など,感覚統合を意識した訓練が,眩暈の改善に寄与したと考える.