講演情報
[10305-10-06]多彩な症状を呈する脳卒中事例に対しAOTを活用した食事動作への支援
*山本 力也1、木村 亮太1、荒井 ひな2 (1. 聖隷横浜病院 リハビリテーション課、2. 聖隷横浜病院 看護部)
キーワード:
失行、食事、運動観察、AOT
はじめに
運動観察療法(以下AOT)とは,「目的動作の動画をモニターなどで観察し,その後その動作の動作練習を行う治療法」で,ミラーニューロンシステムが活性化し,神経可塑性を促進するといわれている. 今回,両側の心原性脳塞栓症による運動障害および失行症等を有する事例に対し,食事動作に焦点を当てAOTを試みた.その結果,食事動作の介助量軽減が認められたため,以下に報告する.本発表に際し事例の家族に同意を得ている.
事例紹介
80歳代,女性,右利き.診断名は心原性脳塞栓症.現病歴は自宅で倒れているところを発見され,救急搬送された.検査にて両側ACA領域,右尾状核の脳梗塞により入院となる.病前生活は独居でADLは自立していた.
作業療法評価
COMは失語の影響により困難だったが,状況理解は一部保たれていた.高次脳機能は観察上,右半側空間無視,道具の使用障害がみられた.BRSは右Ⅱ~Ⅲ/Ⅳ/Ⅱ,左Ⅱ/Ⅲ~Ⅳ/Ⅱ.筋緊張はMASで両側上腕二頭筋1+.MMTは両上下肢2.感覚は痛み刺激の知覚可能.基本動作・ADLは全介助.食事はスプーンを手渡すと把持は可能だが,無反応や混乱の質的エラーが観察され,その後の動作に至らなかった.
作業療法経過
Ⅰ期では物理療法や徒手的介入等により身体機能に改善がみられ,61病日頃から食事動作へ介入した.食事動作では,スプーンを把持した後に無反応や混乱といった質的エラーが観察された.食器へのリーチ,掬う動作,口腔までのリーチの一連の流れを誤りなし学習にて介入した.協力動作は得られたが,介助量は僅かな軽減であった. Ⅱ期(72病日~79病日)ではⅠ期の介入と併せてAOTを導入した.AOTは先行研究を参考に,モニターにて1人称・3人称視点の食事場面の運動観察3分,食事動作練習を5分とした.導入前はスプーンで食器や食材に触れる反応しか得られなかったが、導入後は掬う動作から口腔へのリーチの一連の流れで能動的な反応が観察され、AOTを継続することで能動的な反応が増加した.良好な反応がみられたため、食事の環境設定や介助方法を病棟と共有し,リハ以外でも本人の反応を引き出しながら介助することで、介助量が軽減した.
結果
COMは単語レベルの聴覚的理解が可能となった.高次脳機能は著変なかった.身体機能は,BRS右Ⅲ/Ⅳ/Ⅲ,左Ⅲ/Ⅳ/Ⅱ,筋緊張はMAS1,MMTは両上肢3に改善した.基本動作は中等度~重度介助,ADLはFIM24点に改善した.食事は環境設定した上で掬う動作やリーチ動作などに一部介助を要したが,介助下で2-3割程度が自己摂食可能となった.
考察
本事例は両側脳梗塞により,多彩な症状を呈し,食事動作を含めたADLに介助を要し,回復に難渋していた.AOTを導入した事で,ミラーニューロンシステムの活性化が促進され,運動麻痺および失行症状の改善が認められ,食事動作の介助量が軽減した可能性が示唆された.しかし,一事例での介入結果であり,AOTがどの程度改善に寄与したかは今後の更なる検証が必要である.
運動観察療法(以下AOT)とは,「目的動作の動画をモニターなどで観察し,その後その動作の動作練習を行う治療法」で,ミラーニューロンシステムが活性化し,神経可塑性を促進するといわれている. 今回,両側の心原性脳塞栓症による運動障害および失行症等を有する事例に対し,食事動作に焦点を当てAOTを試みた.その結果,食事動作の介助量軽減が認められたため,以下に報告する.本発表に際し事例の家族に同意を得ている.
事例紹介
80歳代,女性,右利き.診断名は心原性脳塞栓症.現病歴は自宅で倒れているところを発見され,救急搬送された.検査にて両側ACA領域,右尾状核の脳梗塞により入院となる.病前生活は独居でADLは自立していた.
作業療法評価
COMは失語の影響により困難だったが,状況理解は一部保たれていた.高次脳機能は観察上,右半側空間無視,道具の使用障害がみられた.BRSは右Ⅱ~Ⅲ/Ⅳ/Ⅱ,左Ⅱ/Ⅲ~Ⅳ/Ⅱ.筋緊張はMASで両側上腕二頭筋1+.MMTは両上下肢2.感覚は痛み刺激の知覚可能.基本動作・ADLは全介助.食事はスプーンを手渡すと把持は可能だが,無反応や混乱の質的エラーが観察され,その後の動作に至らなかった.
作業療法経過
Ⅰ期では物理療法や徒手的介入等により身体機能に改善がみられ,61病日頃から食事動作へ介入した.食事動作では,スプーンを把持した後に無反応や混乱といった質的エラーが観察された.食器へのリーチ,掬う動作,口腔までのリーチの一連の流れを誤りなし学習にて介入した.協力動作は得られたが,介助量は僅かな軽減であった. Ⅱ期(72病日~79病日)ではⅠ期の介入と併せてAOTを導入した.AOTは先行研究を参考に,モニターにて1人称・3人称視点の食事場面の運動観察3分,食事動作練習を5分とした.導入前はスプーンで食器や食材に触れる反応しか得られなかったが、導入後は掬う動作から口腔へのリーチの一連の流れで能動的な反応が観察され、AOTを継続することで能動的な反応が増加した.良好な反応がみられたため、食事の環境設定や介助方法を病棟と共有し,リハ以外でも本人の反応を引き出しながら介助することで、介助量が軽減した.
結果
COMは単語レベルの聴覚的理解が可能となった.高次脳機能は著変なかった.身体機能は,BRS右Ⅲ/Ⅳ/Ⅲ,左Ⅲ/Ⅳ/Ⅱ,筋緊張はMAS1,MMTは両上肢3に改善した.基本動作は中等度~重度介助,ADLはFIM24点に改善した.食事は環境設定した上で掬う動作やリーチ動作などに一部介助を要したが,介助下で2-3割程度が自己摂食可能となった.
考察
本事例は両側脳梗塞により,多彩な症状を呈し,食事動作を含めたADLに介助を要し,回復に難渋していた.AOTを導入した事で,ミラーニューロンシステムの活性化が促進され,運動麻痺および失行症状の改善が認められ,食事動作の介助量が軽減した可能性が示唆された.しかし,一事例での介入結果であり,AOTがどの程度改善に寄与したかは今後の更なる検証が必要である.