講演情報

[10311-15-05]「橋出血後の遠位橈尺関節掌側脱臼を呈し、手関節尺側偏位を認めた症例に対するスプリント適用の試みと課題」

*井上 穣1 (1. 医療法人五星会 菊名記念病院)

キーワード:

スプリント、脳卒中、脳血管障害

【はじめに】
脳卒中後の運動麻痺や感覚障害、異常筋緊張等は、関節の変形や長期的な疼痛を引き起こすことがあり、ポジショニングやスプリント療法など適切な介入が求められる。本報告では、橋出血による運動麻痺、感覚障害、異常筋緊張によって遠位橈尺関節掌側脱臼を呈し、手関節尺側偏位を認めた症例に対しスプリントを適用した経過を報告する。本報告を行うにあたり症例に対し口頭及び書面にて説明し同意を得た。
【症例紹介】
A氏、60歳代の男性。橋出血発症後、当院にて入院・リハビリテーションを実施し、発症23日後に回復期病院へ転院した。発症55日後に難治性偽痛風の治療目的で当院整形外科病棟に再度入院し、検査の結果、遠位橈尺関節掌側脱臼と診断された。
【作業療法評価】
意識機能はJapan Coma Scale0、運動麻痺はBrunnstrom Recovery Stage左5-5-5、感覚機能は左上下肢表在覚軽度鈍麻、深部覚重度鈍麻、筋緊張は左肘関節・手関節MAS:2、左手関節の肢位は尺屈30度、掌屈10度に偏位し、安静時より左手関節にNRS:6の疼痛を認めた。
【介入経過】
徒手整復にて疼痛軽減が得られたため、主治医に報告し入院4日目よりシーネ固定を開始。しかし、症例自身での着脱が困難で搔痒感が出現し、ADLでの左手の使用も困難であった。入院14日目に主治医と協議しコックアップスプリントの作製を決定した。関節変形、感覚障害、異常筋緊張により症例の手で成形が困難だったため、他者の手をモデルにスプリントを作製し、調整のうえ適用した。またスプリント着用部に発赤や損傷がないか観察をするように症例へ指導した。
【結果】
スプリントは再転院するまでの12日間装着した。スプリント着用により即時的に左手関節は橈側へ整復され、左手関節の肢位は尺屈15度、背屈5度で、安静時痛はNRS:2まで軽減した。ADLでの左手の使用は困難であったが、スプリントの着脱は自立し、清拭を含む衛生管理は症例自身で行えるようになった。
【考察】
スプリントの着用は局所的な圧迫が加わるため発赤等、皮膚損傷のリスクがあり、症例自身での観察も必要という1)。特に感覚障害を有する症例では、発赤等の皮膚損傷に気が付きにくい場合があると考えられるため、感覚機能の他、意識機能、認知機能を評価し、症例自身で麻痺側管理・観察が可能か判断する必要があると考える。また本症例では他者の手をモデルにスプリントを作製したため適合不良のリスクがあったが、入院中であり適宜装着部の確認や、調整を施すことができ、安全で効果的なスプリントの使用が出来たと考える。今後、感覚障害を有する症例への適応基準や、他者の手を用いたスプリント作製の有効性について更なる検討が必要と考えられる。
【参考文献】
1)藤原謙吾ほか(2024)「麻痺側母指と示指の指腹つまみをサポートする機能的スプリントを着用することで日常生活や仕事でできる作業の拡大を認めた一症例」「作業療法」43巻1号、p114-120