講演情報
[10316-20-02]四肢機能不全と気管切開によるコミュニケーション障害を認めた症例に対して,表出手段の再獲得を目指した報告
*茂木 茉莉奈1、千葉 周平1、輕部 敦子1、黒崎 空1、神保 武則1 (1. 北里大学病院)
キーワード:
コミュニケーション、頚椎症、難病
【はじめに】
大学病院に入院する患者の多くは,急性期治療が要求される.その過程では,気管切開術後や四肢機能不全を呈した患者の意思表出に制限をもつ場合も多く観察される.意思表出の制限は精神的負担や社会参加の阻害が生じるため,表出手段の再獲得に向ける支援は重要である.作業療法士はローテクノロジー機器(ローテク)やハイテクノロジー機器(ハイテク)の特徴と,患者の残存機能,予後,環境因子を評価し,適切な機器を選定する必要がある.今回,四肢機能不全と気管切開により発声および筆談が困難となった症例に対し作業療法(OT)により,表出の拡大が認められたため報告する.
【症例紹介】
症例は頸椎症性脊髄症(CSM),多系統萎縮症(MSA)の70歳代女性.既往歴に小児麻痺があり,右上肢は廃用手であった.Y-2年には膝関節置換術後感染により右大腿切断術を施行していた.X-90日頃から左上下肢に筋出力低下を呈し,ADL全介助となった.Y年X日にCSMの治療目的で入院したが,X+8日にMSAによる声帯麻痺が生じ,気管切開術を施行した.X+18日の初回評価では,GCSはE4VTM6.コミュニケーションは,Closed Questionに対して頷きは可能だが,左上肢はMMT3であり筆談,文字盤操作は困難.COPMの作業満足度はコミュニケーションにおいて,重要度8,遂行度1,満足度1であった.今回発表に際し,症例と御家族より書面にて同意を得ている.
【結果】
X+11日より,文字盤を開始したが,左上肢運動麻痺により正確な指差しは困難であった.X+27日より,STと共同して電気喉頭器を開始し,不明瞭ながらも単語表出可能となったが,自身での機器操作は困難であった.X+42日より,プッシュスイッチを用いてスキャン式の意思伝達装置を開始.スイッチ操作は次第にエラー減少し,OT時間以外に,自主トレーニングとして練習も開始した.X+63日より,スキャン方式での文字盤の練習を開始した.X+70日の最終評価時,文字盤や電気喉頭器の操作は介助を要したが,基本的欲求について単語または短い文章の表出が可能となり,FIMの表出は3点であった.また,スイッチを用いてスキャン式の意思伝達装置を操作し,職員に家族について紹介することもあった.COPMの作業満足度は,重要度8,遂行度3,満足度4であった.
【考察】
急性期病院に入院する患者の治療過程で突然言語的なコミュニケーション手段を喪失した患者に対し,主体的な意思表出ができるようOTを行った.発声が困難な患者は筆談等の代替手段が有用だが,本症例は四肢機能不全によりそれらの獲得が困難であった.そのため,作業療法士が残存機能を評価し,ローテクとハイテクを導入したことで,FIMの表出項目の改善とコミュニケーションの満足度が向上したと考えられる.
大学病院に入院する患者の多くは,急性期治療が要求される.その過程では,気管切開術後や四肢機能不全を呈した患者の意思表出に制限をもつ場合も多く観察される.意思表出の制限は精神的負担や社会参加の阻害が生じるため,表出手段の再獲得に向ける支援は重要である.作業療法士はローテクノロジー機器(ローテク)やハイテクノロジー機器(ハイテク)の特徴と,患者の残存機能,予後,環境因子を評価し,適切な機器を選定する必要がある.今回,四肢機能不全と気管切開により発声および筆談が困難となった症例に対し作業療法(OT)により,表出の拡大が認められたため報告する.
【症例紹介】
症例は頸椎症性脊髄症(CSM),多系統萎縮症(MSA)の70歳代女性.既往歴に小児麻痺があり,右上肢は廃用手であった.Y-2年には膝関節置換術後感染により右大腿切断術を施行していた.X-90日頃から左上下肢に筋出力低下を呈し,ADL全介助となった.Y年X日にCSMの治療目的で入院したが,X+8日にMSAによる声帯麻痺が生じ,気管切開術を施行した.X+18日の初回評価では,GCSはE4VTM6.コミュニケーションは,Closed Questionに対して頷きは可能だが,左上肢はMMT3であり筆談,文字盤操作は困難.COPMの作業満足度はコミュニケーションにおいて,重要度8,遂行度1,満足度1であった.今回発表に際し,症例と御家族より書面にて同意を得ている.
【結果】
X+11日より,文字盤を開始したが,左上肢運動麻痺により正確な指差しは困難であった.X+27日より,STと共同して電気喉頭器を開始し,不明瞭ながらも単語表出可能となったが,自身での機器操作は困難であった.X+42日より,プッシュスイッチを用いてスキャン式の意思伝達装置を開始.スイッチ操作は次第にエラー減少し,OT時間以外に,自主トレーニングとして練習も開始した.X+63日より,スキャン方式での文字盤の練習を開始した.X+70日の最終評価時,文字盤や電気喉頭器の操作は介助を要したが,基本的欲求について単語または短い文章の表出が可能となり,FIMの表出は3点であった.また,スイッチを用いてスキャン式の意思伝達装置を操作し,職員に家族について紹介することもあった.COPMの作業満足度は,重要度8,遂行度3,満足度4であった.
【考察】
急性期病院に入院する患者の治療過程で突然言語的なコミュニケーション手段を喪失した患者に対し,主体的な意思表出ができるようOTを行った.発声が困難な患者は筆談等の代替手段が有用だが,本症例は四肢機能不全によりそれらの獲得が困難であった.そのため,作業療法士が残存機能を評価し,ローテクとハイテクを導入したことで,FIMの表出項目の改善とコミュニケーションの満足度が向上したと考えられる.