講演情報
[10316-20-04]視知覚情報に着目した介入を行うことで安全な階段昇降が可能となった事例―退院後のコーラス参加を目指してー
*高橋 禎典1 (1. 康心会汐見台病院 リハビリテーション科)
キーワード:
階段昇降、視知覚、床上動作
【はじめに】
今回,階段昇降をスムーズに出来ないと訴える橋梗塞を呈した事例を担当した. 姿勢制御に必要な視覚情報による床面や対象物の質感・奥行き認知に着目し,視覚と固有感覚の統合を促した結果,安全な階段昇降が可能となった.さらに,事例の趣味であるコーラスへの参加に繋げていく事が出来たため,以下に報告する.なお,本報告は書面にて本人の同意を得ている.
【事例紹介】
90代女性.診断名は橋梗塞. 14日後に回復期病棟に入院となった.病前は独居でIADLも自立していた.自宅前に15段の階段がある.友人とコーラスを楽しむ趣味があり,電車で1時間の場所に集まっていた.
【初期評価(X+14-18日)】BRS6-6-6, Scale for the Assessment and Rating of Ataxia(以下SARA)8点,FBS40点であった.HDS-R26点,TMT-A77秒,B225秒であった.感覚は軽度鈍麻で階段昇降では視覚優位の動作となっていた.FIMは79点で階段昇降には介助が必要であった.ADOCでは「階段をスムーズにできるようにしたい」との発言が聞かれ,コーラス参加に向けた意欲が伺えた.満足度は1/5であり,事例と話し合い階段昇降を目標に介入を開始した.
【問題点の抽出】
降段時に恐怖感から視線が落ちてしまい,視覚や前庭覚が優位となっている.頭頸部や体幹の伸展パターンが強まり,姿勢の構えの変化が難しかった.そのため, 固有感覚情報を持続的にフィードバックすることが難しく,軽度の体幹失調,体幹の不安定性を認めた.
【経過X+20-80日】
介入初期は,階段の床面との距離が掴みにくく体幹近位部の代償反応を生じやすい状況にあった.そのため,窓ふき動作では手部や足部から得られる床面からの感覚情報や視覚情報による奥行き認知,対象物との位置感覚の協調を図ることから開始した.窓拭きから床拭き,四つ這いへと段階付けを行い,多関節運動による活動を行い階段昇降の安定性が向上した.後期には,床と机との位置関係を意識して姿勢の構えを切り替えていく活動により更なる体幹部の安定性を図った.
【結果X+85-90日】
SARA8→4点,FBS40→52点,HDS-R26→28点,TMT-A77→77秒,B225→112秒と改善を認めた.FIMは124点,階段昇降は自立となりADOCの満足度は1/5→4/5に向上した.退院後,事例は「もう大丈夫です,コーラスに行けてます」と発言があった.
【考察】
伊藤は,視覚情報として移動先の空間における「肌理情報」を捉えることで距離や高さを実感し,予測的な姿勢調整の準備につながることを説明している.床上動作を行ったことで,視覚誘導による肌理の情報と固有感覚情報を無自覚に統合することが出来るようになり,階段昇降の改善に繋がったと考える.
今回,階段昇降をスムーズに出来ないと訴える橋梗塞を呈した事例を担当した. 姿勢制御に必要な視覚情報による床面や対象物の質感・奥行き認知に着目し,視覚と固有感覚の統合を促した結果,安全な階段昇降が可能となった.さらに,事例の趣味であるコーラスへの参加に繋げていく事が出来たため,以下に報告する.なお,本報告は書面にて本人の同意を得ている.
【事例紹介】
90代女性.診断名は橋梗塞. 14日後に回復期病棟に入院となった.病前は独居でIADLも自立していた.自宅前に15段の階段がある.友人とコーラスを楽しむ趣味があり,電車で1時間の場所に集まっていた.
【初期評価(X+14-18日)】BRS6-6-6, Scale for the Assessment and Rating of Ataxia(以下SARA)8点,FBS40点であった.HDS-R26点,TMT-A77秒,B225秒であった.感覚は軽度鈍麻で階段昇降では視覚優位の動作となっていた.FIMは79点で階段昇降には介助が必要であった.ADOCでは「階段をスムーズにできるようにしたい」との発言が聞かれ,コーラス参加に向けた意欲が伺えた.満足度は1/5であり,事例と話し合い階段昇降を目標に介入を開始した.
【問題点の抽出】
降段時に恐怖感から視線が落ちてしまい,視覚や前庭覚が優位となっている.頭頸部や体幹の伸展パターンが強まり,姿勢の構えの変化が難しかった.そのため, 固有感覚情報を持続的にフィードバックすることが難しく,軽度の体幹失調,体幹の不安定性を認めた.
【経過X+20-80日】
介入初期は,階段の床面との距離が掴みにくく体幹近位部の代償反応を生じやすい状況にあった.そのため,窓ふき動作では手部や足部から得られる床面からの感覚情報や視覚情報による奥行き認知,対象物との位置感覚の協調を図ることから開始した.窓拭きから床拭き,四つ這いへと段階付けを行い,多関節運動による活動を行い階段昇降の安定性が向上した.後期には,床と机との位置関係を意識して姿勢の構えを切り替えていく活動により更なる体幹部の安定性を図った.
【結果X+85-90日】
SARA8→4点,FBS40→52点,HDS-R26→28点,TMT-A77→77秒,B225→112秒と改善を認めた.FIMは124点,階段昇降は自立となりADOCの満足度は1/5→4/5に向上した.退院後,事例は「もう大丈夫です,コーラスに行けてます」と発言があった.
【考察】
伊藤は,視覚情報として移動先の空間における「肌理情報」を捉えることで距離や高さを実感し,予測的な姿勢調整の準備につながることを説明している.床上動作を行ったことで,視覚誘導による肌理の情報と固有感覚情報を無自覚に統合することが出来るようになり,階段昇降の改善に繋がったと考える.