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[S1-O-3](招待講演)古生代中葉の世界

*上松 佐知子1 (1. 筑波大学 地球)
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キーワード:

中期古生代、シルル紀、デボン紀


 古生代の中期、シルル紀とデボン紀は、植物の上陸、魚類の放散、両生類の登場など地球史上の重要なイベントが相次ぎ、海洋生態系と陸上生態系の構造が再編成された時期である。シルル紀は古生代のうちで堅固な構造を持つ生物礁が最も発達した時期の一つである。大陸上に広く侵入した浅海域では腕足類やサンゴなどの無脊椎動物群集が繁栄するとともに浮遊性幼生を持つ分類群が増加し、水柱環境の利用様式の多様化が進んだ。この過程を通じて浮遊性生物の多様性が高まり、デボン紀にはそれらを資源とする真の遊泳性生物が表層域へ本格的に進出した。特に魚類は捕食者としての地位を急速に確立させ、これを含めた捕食圧の増大によって海洋生態系全体の構造が大きく変化した。この背景には、陸域環境の劇的な変化が深く関係している。シルル紀までに上陸を果たした緑色植物はデボン紀にかけて多様化し、陸上生態系の基礎を形成した。デボン紀には維管束植物が大規模な森林を作り出し、陸上の物質循環および大気組成を大きく改変すると共に、風化・侵食を通じて海洋へ大量の栄養塩を供給して、浮遊性および遊泳性生物の放散を促した。さらにこの時代は超大陸パンゲアの形成へと向かう時期にあたり、ローラシア大陸に出現した山地・高地とその周辺に形成された淡水・汽水・浅海環境は、デボン紀における魚類および初期四肢動物の出現と放散の舞台となった。
 このような生物進化の過程には、シルル紀・デボン紀の古環境変動が大きく関係している。オルドビス紀末の大量絶滅事件からデボン紀-石炭紀境界絶滅事件までの間、炭素・酸素同位体比は激しく変動を繰り返した。シルル紀では筆石、デボン紀ではコノドントの詳細な生層序学的対比が行われ、これらの変動の時期は詳細に特定されている。特にシルル紀の環境変動の多くは大陸氷河の消長に伴うことが明らかにされており、従来の「温暖で安定した時代」というイメージはもはや妥当ではない。またデボン紀においても20回を超える環境変動・絶滅イベントが認識されており、古生代の中期、8500万年間における気候変動はまさに苛烈であったと言える(Munnecke et al., 2010)。一方、これらの研究の多くは北米・欧州に偏っているという問題もある。多数のイベントが汎世界的なものか局地的な変動であったのか、慎重に判断する必要がある。特に当時南半球の大半を占めていたゴンドワナ大陸における研究例は少なく、データの蓄積が急務である。今回の発表では、古生代中期の環境変動と生物進化について概観し、ゴンドワナ大陸北縁における事例研究を紹介する。
 シルル紀・デボン紀当時、ゴンドワナ大陸のオーストラリア近傍に位置していたシブマス地塊には、豊富な生物群集を伴う炭酸塩プラットフォームが広がっていたと考えられる。ここで形成された地層はタイ国内で一般的にThong Pha Phum層群と呼ばれ、炭酸塩岩を中心に泥岩・砂岩・泥灰岩などを含む多様な岩石からなる(DMR, 2014)。これらの地層には地域ごとに幾つかの地層名が与えられているが、共通して三葉虫、腕足類、直角貝、筆石、テンタキュリトイドからなる化石群集を産するという特徴を持つ(Agematsu et al., 2006, 2017)。このThong Pha Phum層群相当層のうち、演者はタイ北部のMae Ping層および同南部のKuan Tung層の調査を行ってきた。両層はいずれも炭酸塩岩を主体とする地層で、厚さ数mの黒色泥岩層を伴う。コノドントの生層序学的検討により、Mae Ping層とKuan Tung層の黒色泥岩層はそれぞれシルル系最上部と下部デボン系であることが明らかになった。シルル紀の黒色泥岩はKlevおよびLauイベントに対比される可能性がある。一方デボン紀の黒色泥岩は対比される環境変動イベントが特定できず、更なる検討を要する。前期デボン紀はシブマス地塊周辺において古テチス海の拡大が起こった時期とされ、局地的な環境変動による岩相変化である可能性がある。

Agematsu et al., 2006. Journal of Asian Earth Sciences, 26, 605–611; Agematsu et al., 2017. Proceedings of DMR-CCOP-TNCU Technical Seminar, 23–27; DMR (Department of Mineral Resources, Thailand), 2014. Geology of Thailand; Munnecke et al., 2011. Palaeo-3, 296, 389–413.

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