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[S1-O-4](招待講演)石炭紀:パンゲアの時代の地球環境と生物相

*上野 勝美1 (1. 福岡大学)
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キーワード:

石炭紀、地球環境、生物相、パンゲア


 古生代5番目の「紀」である石炭紀は,約359Maから299Maにかけてのおよそ6000万年間に相当する地質時代で,その名が示すように地球史の中ではじめて大規模な石炭形成が起こった時代である.この時代には大陸の集合と衝突・合体が進行し,その中頃にRheic海が閉鎖することでパンゲア超大陸が形成された.顕生代の長期気候変動の中では,石炭紀前半が温室期に,パンゲア成立以降の石炭紀後半から次のペルム紀前半が氷室期にあたり,石炭紀後半には低い二酸化炭素濃度と高い酸素濃度で特徴づけられる特異な表層環境が出現した.このとき,南半球の高緯度域にゴンドワナ氷床とよばれる大陸氷床が発達し,ミランコビッチ・サイクルによる周期的な気候変動のもと,氷床の発達と融解が第四紀同様の氷河性海面変動を引き起こした.このような地球表層環境の中で,古生代型生物群であるフズリナやコノドント,腕足類などのさまざまな海生生物群集が温暖な浅海域を中心に繫栄した.また,陸域では熱帯多雨地域の沼沢地を中心に巨大なシダ植物やシダ種子植物を主体とした大森林が形成され,これが大量の石炭のもととなった.
世界の主要な石炭系堆積盆では,一般に下部石炭系と上部石炭系でその岩相層序に顕著な違いがみられる.下部のミシシッピアン亜系では石灰岩が卓越するのに対し,上部のペンシルバニアン亜系は細粒珪砕屑岩(泥岩,砂岩),石灰岩から成る沿岸(陸成,浅海成)~沖合堆積物が主体で,その中に古土壌や石炭層が周期的に挟まれる堆積サイクルが特徴的である.この違いは,前期石炭紀の全般的に温暖な気候と,後期石炭紀に極域で発達したゴンドワナ氷床の消長による周期的な海水準の上下動を反映している.上部石炭系の輪廻堆積物はサイクロセムとよばれ,多くの堆積盆でその層序解析が行われている.それらの情報が,この時代の地層の対比や環境変動の解明には不可欠である.
石炭紀の海生生物相変遷を概観すると,前期石炭紀の前半は後期デボン紀に発生した2つの絶滅イベント(F/F境界およびHangenbergイベント)からの回復期の様相が強い.このとき,アンモノイドや腕足類,コノドント,四放サンゴなど,多くの海生生物グループで新たな放散が始まり,前期石炭紀を通じて多様化が進行した.Mid-Carboniferous境界は石炭紀を2つの亜紀に分ける重要な境界であり,そこでは海生生物群集の入れ替りがみられるが,その転換は短期的な大量絶滅イベントではなく,むしろ段階的,漸進的な変化であった.これ以降,フズリナでは殻の大型化が起こり,四放サンゴやアンモノイド,コノドントでも新たなグループが出現した.また古生物地理的には,Mid-Carboniferous境界頃のパンゲアの成立が生物多様性の高い低緯度浅海域を東西に分断したことで,浅海生物群集の地域性が高まった.これがペンシルバニアン亜系の国際対比を難しくし,各階のGSSP策定が進まない原因にもなっている.一方,石炭紀末(石炭紀/ペルム紀境界)には目立った絶滅は記録されておらず,多くの海生生物グループは高次分類群レベルでペルム紀へと産出が連続する.後期古生代における長期的な生物群集変遷という観点では,石炭紀の海生生物群は後期デボン紀とペルム紀末に発生した2つの大量絶滅に挟まれた時代の,前段における生物発展のフェーズに相当する.
日本列島の古生界の中で,石炭系は比較的広い分布が知られている.その堆積サクセッションには起源の異なる2つのタイプのものがある.ひとつは南部北上帯や飛騨外縁帯にみられる,パンサラッサ海洋縁辺の沈み込み帯における弧の活動の影響を受けた陸棚相堆積物で,もうひとつは秋吉石灰岩などの,ペルム紀~ジュラ紀付加体中に残されたパンサラッサ海洋島起源のアトール石灰岩体である.特に後者は世界の石炭系の中でほとんど例のない地質体で,パンゲアの時代におけるパンサラッサ海遠洋浅海域の連続的な層序を記録したユニークな地質媒体である.これまで,世界の石炭系研究ではパンゲア陸棚域で形成された堆積盆が主な研究対象であった.これら日本列島に残された大洋域での生物相変遷や古環境変動の情報は,石炭紀という地質時代をより良く理解する上で今後さらに重要になるだろう.

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