講演情報
[S1-O-6](招待講演)古生代後期のコノドント層序学の発展と日本の地質記録からの貢献
*武藤 俊1 (1. 産業技術総合研究所地質調査総合センター)
キーワード:
石炭紀、ペルム紀、年代層序、古生物地理、付加体
古生代後期は,顕生代最長の氷河時代を含むと同時に,樹木性の植物や四足動物によって特徴付けられる陸上生態系の発展が起きた時代である.古生代後期の海生層の地質年代決定には,古くはアンモノイドや底生有孔虫が用いられてきた.ただし,寒冷化とパンゲア大陸の形成に伴う赤道の海路の消滅により,海生動物の地域固有性が進んだと考えられ,その結果全球的な化石帯の区分は困難となっていた.20世紀後半になると,新たな化石層序の選択肢としてコノドントが検討されるようになり,特に1980年代以降古生代後期の詳細な検討が進んだ.コノドントは,産出する堆積場の幅が広く,一般に産出数も多いことから年代指標として好まれ,古生代後期の大部分の地質年代境界について,コノドントの初産出を定義として用いることをある程度前提として研究が進められた.その結果,1990年代以降,石炭系からペルム系の17ある階境界のうち12が制定されたが,11はコノドントを指標としている.さらに,未制定の境界も全てコノドントを定義に用いることが検討されている1, 2.
一方で,化石種としては研究の歴史が浅いゆえに,化石種としての検討が不十分なまま化石帯の区分だけが進んでしまったケースもある.例えば,石炭系基底を定義するコノドントSiphonodella sulcataは,GSSPにおいて制定された境界層準よりも下位からの産出が報告され,現在境界の再検討が行われている2.また,コノドントについても地域固有性がアンモノイドや底生有孔虫と同時期に強まっていることが明らかになった.これらを踏まえ,最近のGSSP制定に際しては,候補セクションの詳細な生層序学的検討だけでなく,コノドント種の系統や地域性,他地域との対比における有用性に関する問題を解決した上での制定が試みられている3.中でも,地域,古水深による棲み分けは,種の真の出現・消滅と,環境変化に伴う移入による見かけ上の出現・消滅を区別する必要性を意味する.
これを克服する上では,検討例が少ない深度や地域の堆積岩層でのコノドント化石層序の検討が不可欠である4.とりわけ,日本列島に分布する付加体中の地質記録は,堆積場の古地理的位置と極端な遠洋域環境であるという2点において,世界の他地域では得られない極めて貴重であるが,1990年代以降の層序的枠組みの形成においてはあまり重視されてこなかった.古生代後期に関しては,20世紀後半には遠洋海山上で形成された石灰岩において,また,近年にかけては遠洋域の深海底で堆積した珪質堆積岩について,コノドント化石層序の検討が進んだ.近年の,世界の他地域における研究の進展と照らし合わせることで,重要な年代指標種を含む分類群について,下記の点が明らかになってきた.1)石炭紀末からペルム紀前期にかけて起きたStreptognathodus属の絶滅は,遠洋の構成種と縁海の構成種の2段階で起きた5.2)ペルム紀前期に東ヨーロッパなどに限られていると考えられていたMesogondolella属は深度の深い水域にて汎世界的に分布する良好な示準化石である5, 6.3)ペルム紀前期〜中期に温暖域に分布すると考えられていたSweetognathus属は,水深の浅い海底地形に分布が制約されていた7.4)遠洋域の特に海山周辺では,寒冷域の固有種と温暖域の固有種が共存していた可能性がある8.本講演では,これら日本の付加体中の地質記録に基づく成果や全球的な層序対比へのさらなる貢献の可能性について紹介する.
文献
1Lucas, S.G. & Shen, S.Z., Geol. Soc. London, Spec. Pubs., 450, 1–19 (2018). 2Lucas, S.G., et al. Geol. Soc. London, Spec. Pubs., 512, 19–48 (2022). 3Chernykh, V.V. et al. Episodes 46, 623–651 (2023). 4Wardlaw, B.R., et al. Micropaleontology 61, 369–387 (2015). 5Muto, S., et al. Front. Earth Sci. 11, 1–19 (2023). 6Muto, S., et al. Bull. Geol. Surv. Japan 76, 1–29 (2025). 7Muto, S. et al., 2022 Pander Society Fifth Internat. Conodont Symp. Progr. Abst. 38 (2022). 8Muto, S., et al. Paleontol. Res. 25, 105–119 (2021).
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