講演情報

[T14-O-11]四万十帯砂岩を用いた土佐藩主墓石の非破壊産地推定:pXRF・帯磁率・PCAによる検討

*谷川 亘1,2、望月 良親2、高木 翔太3、鈴木 孝弘4、多田井 修4、山本 哲也5 (1. 国立研究開発法人海洋研究開発機構、2. 高知大学、3. 高知城歴史博物館、4. マリン・ワーク・ジャパン、5. 黒潮町教育委員会)
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キーワード:

土佐藩主山内家墓所、砂岩、石材産地推定、ポータブルXRF、帯磁率

 大型墓石や石造物に用いられた石材の産地は,地域の地質資源だけでなく,採石,運搬,施工を支えた社会的・技術的背景を考えるうえで重要な情報である.しかし,文化財石造物では試料採取が困難であり,風化面を対象とした非破壊分析に基づいて,文献史料および現地情報と整合的に産地を評価する必要がある.本研究では,高知市の国史跡・土佐藩主山内家墓所に残る砂岩製大名墓石を対象に,ポータブルXRF(pXRF)分析と帯磁率測定を組み合わせ,砂岩石材の産地推定を行った.
山内家墓所には初代一豊から十六代豊範までの藩主および家族の墓があり,藩主墓石の多くは白色~灰色の砂岩で構成される.文献史料では,第8代豊敷墓は東諸木,第11代豊興墓は東諸木および甲殿,第16代豊範墓は加領郷から石材が調達されたことが示唆されるが,具体的な採石地点は未確定であった.そこで,史料に基づく候補地である高知市南部の東諸木・甲殿地域および奈半利町加領郷地域で現地踏査と聞き取りを実施し,名村の鼻,雀ヶ森,甲殿の野本家周辺,加領郷海岸などを採石場候補地として調査した.
大名墓石,墓所内関連石造物,採石場候補地の露頭・転石・地域内石造物について,携帯型帯磁率計により各対象40点以上の測定を行い,平均値と標準偏差を求めた.さらにMESA-800を用いたpXRF分析を行い,GSJ地球化学標準試料20点により作成した検量線に基づいて元素濃度を求めた.文化財である墓石は自然表面での非破壊測定に限られるため,採取試料の一部では自然面と切断面の比較を行ったうえで,主解析には自然面データを用いた.pXRF元素のうちMg,Si,K,Ca,Ti,Fe,Rb,Srと帯磁率を標準化し,二変量図および主成分分析(PCA)により比較した.帯磁率は,多くの砂岩製大名墓石で(0.17~0.21)×10^-3 SIに集中し,東諸木・甲殿地域の砂岩と重なる.一方,第16代墓石は(0.05~0.07)×10^-3 SIと低く,加領郷砂岩および同地域の石造物に近い値を示した.pXRF結果では,Rb–Sr図において高知市南部の砂岩群と加領郷砂岩群が明瞭に分かれ,第16代墓石は加領郷群に近接した.帯磁率–Fe/Ti図でも同様に,加領郷群は低帯磁率・低Fe/Tiで特徴づけられた.PCAでは,第16代墓石がRb,K,Siの寄与を受けて他の墓石群から分離し,加領郷試料と近い領域にプロットされた.一方,第16代を除く多くの大名墓石はSrおよび帯磁率と関連するクラスターを形成し,東諸木・甲殿地域の砂岩と類似した.第11代墓石では,主墓標が甲殿の野本家周辺試料に近い一方,下部台石は東諸木試料に近い傾向を示し,同一墓域内でも部材ごとに石材調達先が異なった可能性がある.また,自然石形態を示す第12代墓石は形状上は他の切石墓石と異なるが,化学的・磁気的特徴は加領郷ではなく高知市南部の砂岩群に近い.
以上の結果は,第8代,第11代,第16代について残る文献記録と大きく矛盾せず,さらに記録の乏しい砂岩製墓石についても,第3代から第14代までの砂岩製墓石の多くが高知市南部の砂岩資源を継続的に利用した可能性を示す.第16代墓石はその例外として,加領郷由来の砂岩を用いた可能性が高い.pXRF単独では近接する砂岩産地の一対一対応を確定するには限界があるが,Rb–Sr,Fe/Ti,帯磁率,PCA,肉眼観察,史料情報を統合することで,砂岩製文化財石造物の非破壊的な産地推定の信頼性を高められることが示された.本研究は,四万十帯砂岩を利用した近世大名墓石の石材調達を,地質資源,輸送インフラ,墓制の変化の関係から再検討する基礎資料となる.

引用文献:望月良親(2023)高知県立高知城歴史博物館研究紀要,5,1–18.

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