講演情報

[T18-P-2]銚子コアの有孔虫化石の酸素同位体比分析に基づく中期更新世の海洋環境の推定

*原井 優里1、桑野 太輔2、久保田 好美3、サイディ マッソウ3、亀尾 浩司1 (1. 千葉大学、2. 京都大学、3. 国立科学博物館)
PDFダウンロードPDFダウンロード

キーワード:

犬吠層群、酸素同位体比分析、浮遊性有孔虫、底生有孔虫、更新世

 千葉県銚子地域に分布する犬吠層群は,保存のよい微化石を多量に含む鮮新–更新統である(酒井,1990).これまでの年代層序学的研究から,犬吠層群は前期–中期更新世の気候変遷期(Early–Middle Pleistocene Transition: EMPT; Head and Gibbard, 2015)とよばれる,氷期–間氷期サイクルの周期が4.1万年から10万年へと変化した時期の堆積物であることが明らかにされている.また,銚子地域の沖合は,寒流の親潮と暖流の黒潮が会合する海域であり,これらの海洋前線の南北振動は東アジアの気候変動に大きく影響を及ぼしたことが知られている(例えばKubota et al., 2021).そのため,本地域は氷期–間氷期サイクルに伴う海洋前線の変動を復元するのに適した地域である.そこで本研究では,犬吠層群横根層および倉橋層の浮遊性・底生有孔虫化石の酸素同位体比を測定し,当時の海洋環境を千年スケールで復元することを目的とした.本研究で取り扱う層準は1998年に千葉県銚子市森戸町で掘削された全長250 mの銚子コア(Kameo et al., 2006)のうち,犬吠層群横根層および倉橋層に相当する深度150–100 mである.泥岩試料を処理し,残渣から2種の浮遊性有孔虫化石(Globigerina bulloides, Globorotalia inflata)と底生有孔虫化石(Uvigerina spp., Bolivinita spp., Bulimina aculeata)を拾い出し,国立科学博物館所有の自動炭酸塩前処理装置(KIEL Ⅳ Carbonate Device)と質量分析計(MAT 253)を用いて酸素同位体比の測定を行った.本研究の測定結果をLR04標準曲線(Lisiecki and Raymo, 2005)と対比させたところ,取り扱った深度150–100 mの層準は海洋酸素同位体ステージMIS 18からMIS 13に相当することが明らかになった.G. bulloidesとG. inflataの酸素同位体比はそれぞれ-0.33–2.44‰,1.25–2.77‰で変動し,底生有孔虫化石の酸素同位体曲線と類似している.ただし,浮遊性有孔虫化石の酸素同位体曲線は,検討層準全体を通じて底生有孔虫化石の変動よりも振幅が大きく,氷期–間氷期サイクルより短い周期の変動がみられる.したがって,これらの酸素同位体比の変動は,氷床量の変化に加えて表層海洋環境の変化を記録していると考えられる.特に,MIS 18では,G. inflataの酸素同位体比が,千年程度の周期で増減を繰り返しており,このことは,氷期–間氷期サイクルよりも短い千年周期のスケールで海洋の成層構造が強化と弱化を繰り返していたことを意味する.また,MIS 16からMIS 15にかけては,G. bulloidesの酸素同位体比は2.44‰から-0.33‰へ急激に低下した.さらに,海洋表層に生息するG. bulloidesと中層に生息するG. inflataの酸素同位体比の差分が,0.33‰から1.68‰へと急激に増加した.このことは,黒潮の北上により海洋表層が温暖化し,海洋表層–中層の水温差が大きくなることで,海洋の成層が強化されたと解釈される.同様の変動は,MIS 18からMIS 17にかけても記録されていることから,銚子地域では氷期から間氷期への移行期に黒潮の北上が発生していたと推測される.

引用文献
Head and Gibbard, 2015, Quaternary International, 389, 7–46.
Kameo et al., 2006, Island Arc, 15, 366–377.
Kubota et al., 2021, Progress in Earth and Planetary Science, 8, 29.
Lisiecki and Raymo, 2005, Paleoceanography, 20, PA1003.
酒井,1990,宇都宮大学教養学部研究報告,2,23,1–34.

コメント

コメントの閲覧・投稿にはログインが必要です。ログイン