講演情報
[T18-P-8]ベンガル湾堆積物から復元した過去600万年のインドモンスーン変動
*児玉 祐輔1、安藤 卓人2、沢田 健1,3 (1. 北海道大学理学院、2. 秋田大学国際資源学研究科、3. 北海道大学理学研究院)
キーワード:
IODP、ベンガル湾、インドモンスーン、バイオマーカー
ヒマラヤ山脈・チベット高原の隆起は、南アジアを中心としてインドモンスーンシステムを形成し、特にインド夏モンスーン(ISM)は南アジアに豪雨をもたらし、インド洋ベンガル湾へと多量の淡水を流入させる。また、ベンガル湾の堆積物から過去のISM変動が復元されてきたが、更新世以降に着目したものが大部分を占めており、鮮新世以前のISM変動は未解明な点が多い。さらに、ヒマラヤ山脈・チベット高原の隆起とISMがもたらす降水による激しい侵食によって、ベンガル湾の深海底には陸域から多量の粗粒砕屑物がガンジス・ブラマプトラ川水系を通じて輸送されており、世界最大の海底扇状地であるベンガルファンが形成されている(Curray et al., 2003)。ベンガルファンには河口部から長距離輸送された陸上植物由来の有機物が埋積していることが分かっており(Lee et al., 2019)、陸源物質の海洋への流入と炭素循環との関わりなどを理解するためにより定量的な解析が求められている。本研究では、ベンガルファン堆積物に含まれる生物指標有機分子(バイオマーカー)の分析により、陸源有機物の輸送過程と古環境変動を過去600万年にわたって復元した。
本研究では、IODP Exp. 353でベンガル湾Site U1444から掘削されたコア試料を用いた。微化石層序から、コアの最下部は約6Maと推定される。U1444Aコアのタービダイト層(シーケンス)を粗粒層とその直下・直上の細粒層(直下:半遠洋性泥層(Hemipelagite)、直上:基本的にタービダイト性泥層(Tmud))に分けて採取して、脂質バイオマーカーを分析した。
U1444Aコア試料からはハプト藻起源の長鎖アルケノン、珪藻や真正眼点藻に由来する長鎖アルキルジオール、陸上植物起源テルペノイド、藻類や陸上植物に由来するステロイドがおもに検出された。アルケノン不飽和指数(UK’37)と長鎖アルキルジオール指数(LDI)から見積もった鮮新世以降のベンガル湾の海面水温(SST)は平均27~28℃であり、ベンガル湾が高温な環境であったことを示している。
植物テルペノイドは、マングローブ植物に由来するタラキセロール(Taraxerol)が特徴的に高い割合で検出された。ベンガル湾への主要な流入河川であるガンジス・ブラマプトラ川水系は河口部に大規模なマングローブ林が広がっており、後背地植生を反映した結果であると考えられる。植物テルペノイド中のタラキセロールの相対量は更新世以降で上昇する傾向を示した。この傾向は、海洋堆積物へのタラキセロールの流入が海水準変動に強く影響されるという報告(Versteegh et al., 2004)を反映していると解釈した。淡水流入を示すC32 1,15ジオール比の値は一般的な海洋での値(5%以下)を上回っており、U1444サイトへ継続的に淡水が流入していたことを示唆する。陸域からの物質輸送を示す植物テルペノイド濃度や陸/海比を示すステロイドC29/C27比、C32 1,15ジオール比は全て0.8Ma以降で大きく増加しており、ヒマラヤ山脈の隆起やISMの強化を反映していると考えられる(Patrick et al., 2026; Valdiya, 2002)。さらに、C32 1,15ジオール比は3.7Maで顕著な増加を示した。ベンガル湾北部の堆積物記録から、3.7MaはISMが強化されたことが推定されており(Patrick et al., 2026)、本研究で得られたC32 1,15ジオール比の特徴的な増加ピークはこのISM強化による豪雨・洪水などの頻発による大量の淡水の海洋流入を示唆するものと推察した。
引用文献
Curray, J. R. et al. (2003) Mar. Pet. Geol. 19, 1191-1223.
Lee, H. et al. (2019) PNAS. 116. 22518-22525.
Patrick, N. M. et al. (2026) Mar. Geol. 491. 107682.
Valdiya, K. S. (2002) Prog. Phys. Geogr.: Earth Environ. 26. 360-399.
Versteegh, G. J. M. (2004) Geochim. Cosmochim. Acta. 68. 411-422.
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