講演情報
[T18-P-21]X線CTによるカンブリア紀微小節足動物Oelandocaris oelandicaの内部構造観察★2026年度学生優秀発表賞受賞★
*栁原 彩里1、田中 源吾1、三津川 到2、三宅 亮3、徳田 慎太郎3、星野 真人4 (1. 熊本大学、2. 東京大学、3. 京都大学、4. 高輝度光科学研究センター)
キーワード:
カンブリア紀、Oelandocaris oelandica、軟体部保存、放射光X線CT、ナノフォーカスX線CT、スウェーデン
【背景・目的】スウェーデン南部の上部カンブリア系エイラム頁岩層中に産するオルステンノジュールからは,軟体部まで立体的に保存された多様な節足動物化石を産出する[1].この三次元保存を示すカンブリア紀微小節足動物化石は,初期節足動物の形態進化や生態を解明するうえで重要である.その中でも,Oelandocaris oelandicaは,幼体および成体の一部が三次元的に保存された分類群であり,初期の汎甲殻類の系統関係や適応放散を議論するうえで注目されてきた.先行研究[2]では,O.oelandica の体サイズと胴部体節数に基づく成長段階の推定に加え,特殊化した第一触角,前方付属肢,二枝型付属肢,胴部背板上の微小孔などの外部形態が記載された.また,走査型電子顕微鏡(SEM)による多方向観察に基づいて外部形態が復元され,生活姿勢や摂食・遊泳様式も議論されている.一方で,体腔内の内部構造や,SEMでは観察できない隣接する付属肢に覆われた各付属肢の形態,背甲の位置関係など,形質の三次元的配置については検討されていない.そこで本研究では,ナノフォーカスX線CTおよび放射光X線CTを用いて O. oelandica の内部構造と付属肢・背甲の三次元的位置関係を非破壊で観察し,表面観察では把握できなかった解剖学的特徴を明らかにすることを目的とした.
【手法】スウェーデン南部 Backeborg 産オルステンノジュールを,5 %酢酸で処理し,乾燥させた残渣を実体顕微鏡下で観察した.その結果,保存状態の良い1 mmほどのO. oelandica の1標本を発見した.本標本について,ナノフォーカスX線CTおよび高エネルギーX線CTを用いて形態の非破壊観察を行った.観察には熊本大学X-Earth センターのX線CT装置(SkyScan2214)およびSPring-8のBL20B2を用いた.SkyScan2214では,LaB6フィラメントを用い,管電圧70 kV,管電流130 µA,露光時間1800 ms,フレーム平均4回,回転ステップ0.140°,画素サイズ0.60 µmの条件で撮影を行った.SPring-8 BL20B2では,40 keVのX線を用い,投影枚数3600枚,露光時間120 ms,画素サイズ0.73 µmの条件で放射光X線CT撮影を行った.標本全体をCT撮影し,三次元構築を行った上で,微細構造の検出を試みた.
【結果】外部形態だけでなく,胸部から尾部に伸びる消化管の断面が円形であること,消化管は頭胸部で太く,腹部でやや細くなることが分かった.また,消化管に加え付属肢の基節を背甲に接続する筋肉がみられ,背甲と筋肉付着部位の対応を初めて明らかにした.頭部は殆ど保存されていないものの,胸部から尾部の腹側に,はしご状の中枢神経系を発見した.これらの内部構造は,従来の表面観察では把握が不可能であったO.oelandicaの解剖学的表徴である.
【考察】本研究により,オルステン型保存を示す微小節足動物においても,ナノフォーカスX線CTおよび放射光X線CTを組み合わせることで,外部形態だけでなく体内構造を抽出できることが示された.O. oelandica において確認された消化管,付属肢基節に接続する筋肉,および腹側のはしご状中枢神経系は,従来の表面観察に基づいて議論されてきた生活姿勢や摂食・遊泳様式を,再検討する上で重要である.特に,頭胸部で太く腹部でやや細くなる消化管の形態は,摂食・消化に関わる器官配置を考える手がかりとなる.また,付属肢基節と背甲をつなぐ筋肉の存在は,付属肢の可動性や背甲との機能的関係を推定する手がかりとなり,外部形態に基づいて議論されてきた遊泳や摂食に関わる付属肢の使い方を再検討する上で重要である.さらに,腹側に保存されたはしご状の中枢神経系は,各体節に対応する神経系の配置を示す可能性があり,体節と付属肢の対応関係を検討する上で重要である.本神経系の情報は,初期汎甲殻類において,付属肢をもつ体節の構成を考えるための新たな形質情報となる.したがって,本標本の内部構造は,O. oelandica の古生態を理解するだけでなく,カンブリア紀節足動物,とくに汎甲殻類におけるボディ・プランの成立過程を議論する上で重要な手がかりとなる.今後は,中枢神経系の形態解析と付属肢との対応関係,および背甲への各付属肢の筋肉付着部位を対応付けることで,内部の形態形質も含めた汎甲殻類の系統復元を試みる予定である.
[1]Maas et al., 2003, Fossils and Strata, 49, 1–238.
[2]Stein et al., 2008, Acta Palaeontologica Polonica, 53, 461–484.
【手法】スウェーデン南部 Backeborg 産オルステンノジュールを,5 %酢酸で処理し,乾燥させた残渣を実体顕微鏡下で観察した.その結果,保存状態の良い1 mmほどのO. oelandica の1標本を発見した.本標本について,ナノフォーカスX線CTおよび高エネルギーX線CTを用いて形態の非破壊観察を行った.観察には熊本大学X-Earth センターのX線CT装置(SkyScan2214)およびSPring-8のBL20B2を用いた.SkyScan2214では,LaB6フィラメントを用い,管電圧70 kV,管電流130 µA,露光時間1800 ms,フレーム平均4回,回転ステップ0.140°,画素サイズ0.60 µmの条件で撮影を行った.SPring-8 BL20B2では,40 keVのX線を用い,投影枚数3600枚,露光時間120 ms,画素サイズ0.73 µmの条件で放射光X線CT撮影を行った.標本全体をCT撮影し,三次元構築を行った上で,微細構造の検出を試みた.
【結果】外部形態だけでなく,胸部から尾部に伸びる消化管の断面が円形であること,消化管は頭胸部で太く,腹部でやや細くなることが分かった.また,消化管に加え付属肢の基節を背甲に接続する筋肉がみられ,背甲と筋肉付着部位の対応を初めて明らかにした.頭部は殆ど保存されていないものの,胸部から尾部の腹側に,はしご状の中枢神経系を発見した.これらの内部構造は,従来の表面観察では把握が不可能であったO.oelandicaの解剖学的表徴である.
【考察】本研究により,オルステン型保存を示す微小節足動物においても,ナノフォーカスX線CTおよび放射光X線CTを組み合わせることで,外部形態だけでなく体内構造を抽出できることが示された.O. oelandica において確認された消化管,付属肢基節に接続する筋肉,および腹側のはしご状中枢神経系は,従来の表面観察に基づいて議論されてきた生活姿勢や摂食・遊泳様式を,再検討する上で重要である.特に,頭胸部で太く腹部でやや細くなる消化管の形態は,摂食・消化に関わる器官配置を考える手がかりとなる.また,付属肢基節と背甲をつなぐ筋肉の存在は,付属肢の可動性や背甲との機能的関係を推定する手がかりとなり,外部形態に基づいて議論されてきた遊泳や摂食に関わる付属肢の使い方を再検討する上で重要である.さらに,腹側に保存されたはしご状の中枢神経系は,各体節に対応する神経系の配置を示す可能性があり,体節と付属肢の対応関係を検討する上で重要である.本神経系の情報は,初期汎甲殻類において,付属肢をもつ体節の構成を考えるための新たな形質情報となる.したがって,本標本の内部構造は,O. oelandica の古生態を理解するだけでなく,カンブリア紀節足動物,とくに汎甲殻類におけるボディ・プランの成立過程を議論する上で重要な手がかりとなる.今後は,中枢神経系の形態解析と付属肢との対応関係,および背甲への各付属肢の筋肉付着部位を対応付けることで,内部の形態形質も含めた汎甲殻類の系統復元を試みる予定である.
[1]Maas et al., 2003, Fossils and Strata, 49, 1–238.
[2]Stein et al., 2008, Acta Palaeontologica Polonica, 53, 461–484.
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