講演情報

[T12-P-13]静岡県浜松市・行者穴遺跡の堆積物中に認められる粒子配列

*船津 詩歩1、石原 与四郎1、小松原 純子2、山岡 拓也3 (1. 福岡大学、2. 産総研・地質調査総合センター、3. 静岡大学)
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キーワード:

粒子配列、X線CT、洞窟遺跡、生活面、行者穴遺跡


 粒子ファブリックや粒子配列は,粒子の運搬様式,および堆積後の変形プロセスを反映している.このような粒子の特徴は,遺跡においては,自然の堆積に加え人の営為による粒子配列の形成も推定される.フランスの岩陰または洞窟入口の遺跡では,遺物が斜面方向に沿って選択的に配列する傾向を示した.このようなパターンは,周氷河環境下におけるマスムーブメントの結果であると推定されている(Bertran and Texier,1995).一方,Baykara et al.(2026)は,トルコのウチュアズリ2洞窟における急傾斜の粒子配列が人為的な作用によるものであることを示唆している.
 浜松市浜名区滝沢町に位置する行者穴遺跡は,滝沢鍾乳洞遺跡群を構成する洞窟のひとつである.本遺跡では約28,000~27,000年前と約20,000年前の2つの文化層が確認されており,約2万年前の文化層からは,石器,中型哺乳類動物とみられる骨などが多く産出している(山岡,2023).これまでの研究で堆積物中に含まれる岩片や化石,遺物の一部は配列をなす傾向が認められているが,その詳細は明らかになっていない.基質となる堆積物は塊状無構造で,詳細な堆積過程は不明であるが,遺物の多い層準と自然堆積とみられる層準が繰り返しており,これらが粒子配列に反映されている可能性が高い.本発表では,行者穴遺跡の試料に含まれる粒子配列を検討し,その形成過程を考察する.
行者穴遺跡
 2023年から実施されている調査では,人工層位(Spit)を設定して遺物の産出状況がわかるように発掘された.3 mm目のふるいによる乾式選別と,5 mm,1 mm目のふるいによる水洗選別が実施されて,遺物や化石の含有量がspitごとに評価できるようになっている(山岡ほか,2025).本研究では,堆積状態が良好であったC4bグリッドで採取されたブロック試料を利用した.試料はIIa層(褐色土壌)でGJM01~GJM06,IIb層(石灰岩を含む褐色土壌)でGJM07が採取された.おおよそ約70 cmの層厚の堆積物の断面が対象となる.
研究手法
 ブロック試料はX線CT撮影を行い,そのデータセットに基づき粒子を抽出した.撮影には,産総研・地質調査総合センター共同利用実験室の日立製作所製X線CT装置Supria Grandeを使用した.撮影した試料は,粒子と基質が概ね分離されるCT値で区分した後,個々の粒子を3次元情報として出力した.各粒子は回転楕円体で近似し,厚さ,長さ,扁平率,球形度,体積,CT値の中央値のほか,長軸のプランジ方位および傾斜角を算出した.また,粒子のうち扁平粒子を抽出し,移動ウィンドウごとに配列の局所主成分分析を行った.各ウィンドウについてPlanarityを算出し,その高い領域を面的な粒子配列として抽出した.
粒子ファブリックと配列
 個々の粒子の姿勢を検討した結果,堆積物は上位からI~Vのユニットに区分された.Unit Iは急傾斜の粒子を多く含み,急速な堆積・埋没を示唆する.Unit II~IIIでは水平~緩傾斜の粒子が主体となり,比較的安定した堆積環境が推定される.Unit IVでは無構造な部分と緩傾斜の粒子配列が繰り返し認められ,Unit Vでは再び急傾斜粒子を伴う堆積が認められた.局所PCAによる粒子配列解析では,Unit Iにやや急傾斜の面的配列が認められたほか,Unit IVでは緩傾斜の面的配列,Unit Vでは水平に近い面的配列が抽出された.これらの面的配列は,当時の堆積面を反映している可能性が高い.
 遺物は,主としてIIa層上部(Unit I)に集中し,水洗選別でも微細な石片や小型動物骨が多く回収されている(山岡ほか,2025).この層準は急傾斜粒子と面的配列の双方が認められる層準に対応する.また,IIa層中~下部では緩傾斜の面的配列が検出され,同様に遺物・化石が比較的多く含まれる層準と一致した(山岡ほか,2025).さらに,IIa層とIIb層の境界は露頭でも不明瞭ながら確認でき,検出された面的配列はこの地層境界とも対応する.
 X線CTによる粒子解析と局所PCAを組み合わせることで,塊状無構造に見える洞窟堆積物中から面的な粒子配列を定量的に抽出できることが示された.検出された粒子配列は遺物集中層準や地層境界と対応しており,本手法は洞窟遺跡における堆積面や生活面を客観的に認定するための有効な手法となる可能性がある.なお,本研究は,JSPS科研費23K25410の助成を受けて実施した.
文献
Baykara et al., 2026, PNAS, 123, e2609061123.
Bertran, P. and Texier, J.-P., 1995, Jour. Archaeol. Sci., 22, 521–535.
山岡,2023,静岡県浜松市北区行者穴遺跡第2次調査.静岡大学人文社会科学部考古学研究室調査研究集報,3-8.
山岡ほか,2025,静岡県浜松市北区行者穴遺跡第3次調査.静岡大学人文社会科学部考古学研究室調研究集報 2024,3-10.

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