講演情報
[T12-P-14]石垣島南東海岸沿いの洞窟石筍に認められる結晶ファブリックの変化と津波イベント記録
松本 幸樹1,2、*石原 与四郎1、吉村 和久7、成瀬 元3、山極 海嗣4、片桐 千亜紀5、小野 林太郎6 (1. 福岡大学理学部、2. 西日本技術開発(株)、3. 京都大学大学院理学研究科、4. 琉球大学、5. 沖縄県、6. 国立民族学博物館、7. 九州大学)
キーワード:
石筍記録、結晶ファブリック、津波、石垣島
沖縄県南西部に位置する宮古・八重山諸島では,大規模な津波が繰り返し襲来したことが知られている.特に石垣島東海岸では,古文書や地質記録から明和津波や先島津波などの痕跡が確認され,これらは沖縄トラフに起源をもつと考えられている(河名・中田,1994;Goto et al., 2011;Araoka et al., 2013;Ando et al., 2018).古津波の研究は主として津波石に基づいてきたが,近年では洞窟内に津波堆積物が良好に保存されることが明らかとなり,さらに石筍にも津波イベントが記録される可能性が示されている(沖縄県立埋蔵文化財センター,2017a,b;石原・吉村,2017;吉村ほか,2019).
石筍は,酸素・炭素同位体比や元素組成,年縞を用いて古気候や地表環境を高い時間分解能で復元できる媒体である(Wang et al., 2005).一方,津波イベントは,滴下水供給経路,地表植生,海塩・海棲生物由来成分の変化を通じて石筍に記録される可能性がある(吉村ほか,2019).本研究では,同一ケイブシステム内で異なる地表標高に位置する石筍を比較し,津波イベントが石筍にどのように記録されるかを,年縞層厚と結晶の微細ファブリックに着目して検討した.
解析した石筍:本研究では,白保竿根田原洞穴遺跡の調査(沖縄県立埋蔵文化財センター,2017a,b)で採取された石筍SRH-1,SRH-3,SRH-15を用いた.採取地点の標高はSRH-1(12 m),SRH-15(30~40 m),SRH-3(40 m以上)の順に高い.SRH-1およびSRH-3では年縞年代,Sr/Ca,Mg/Ca,炭素・酸素同位体比が,SRH-15では約600年分の年縞年代と炭素・酸素同位体比が既往研究で得られている(沖縄県立埋蔵文化財センター,2017b;佐々木ほか,2018).
研究方法: SRH-1およびSRH-3では新たに薄片を作製し,SRH-15では既存薄片(佐々木ほか,2018)を用いた.各石筍について年縞年代と年縞層厚を用い,西暦1400~1700年を対象として解析した.方解石の微細ファブリックはFrisia(2015)に従って分類した.
石筍記録と津波:石筍の成長速度は,SRH-15(346±157 µm/yr),SRH-3(134±71 µm/yr),SRH-1(58±29 µm/yr)の順に大きかった.明和津波直後の年縞層厚は,SRH-15では減少したのに対し,SRH-1およびSRH-3では一時的に増加した後,元の状態へ戻った.
微細ファブリックはC,Co,Ce,Cm,Mに分類され,滴下速度や季節性,Mg/Caと対応することから形成環境を反映する(Frisia,2015).SRH-1では明和津波前後に形成環境が一時的に不安定化した後,安定化した.SRH-3では安定・不安定環境が繰り返し認められ,SRH-15では相対的に不安定な状態が継続した.
年縞層厚,地球化学指標,微細ファブリックはいずれも形成環境の変化を反映し,特に標高の最も低いSRH-1では1771年明和津波に対応するシグナルが明瞭に認められた.SRH-1は標高が低く,上位を石灰岩のみが覆うため津波の影響を受けやすかったと考えられる.一方,SRH-3は標高が高く津波が到達しなかった可能性が高く,SRH-15では多層構造をもつ洞窟内での形成位置の違いが記録に影響したと推定される.
文献:Ando et al., 2018, Tectonophysics, 722, 265–276.; Araoka et al., 2013, Geology, 41, 919–922.; Frisia, 2015, Journal of Speleology, 44, 1–16.; Goto et al., 2011, Marine Geology, 269, 34–45.; 石原・吉村,2017,科学,87,537–542.; 河名・中田,1994,地学雑誌,103,352–376.; 沖縄県立埋蔵文化財センター,2017a,沖縄県立埋蔵文化財センター調査報告書,85.; 沖縄県立埋蔵文化財センター,2017b,沖縄県立埋蔵文化財センター調査報告書,86.; 佐々木ほか,2018,洞窟学雑誌,43,37–54.; 吉村ほか,2019,第四紀研究,58,195–209.: Wang et al., 2005, Science, 308, 854–857.
謝辞:本研究では,以下の科研費を利用した.南西諸島の洞窟に認められる旧石器人類遺跡とイベント堆積物の解析(20K04138),オセアニアの人類移住と島嶼間ネットワークに関わる考古学的研究(18KK0019),洞窟に記録された災害イベントとその島嶼文化・環境への影響に関する学際的研究(25K01081).
石筍は,酸素・炭素同位体比や元素組成,年縞を用いて古気候や地表環境を高い時間分解能で復元できる媒体である(Wang et al., 2005).一方,津波イベントは,滴下水供給経路,地表植生,海塩・海棲生物由来成分の変化を通じて石筍に記録される可能性がある(吉村ほか,2019).本研究では,同一ケイブシステム内で異なる地表標高に位置する石筍を比較し,津波イベントが石筍にどのように記録されるかを,年縞層厚と結晶の微細ファブリックに着目して検討した.
解析した石筍:本研究では,白保竿根田原洞穴遺跡の調査(沖縄県立埋蔵文化財センター,2017a,b)で採取された石筍SRH-1,SRH-3,SRH-15を用いた.採取地点の標高はSRH-1(12 m),SRH-15(30~40 m),SRH-3(40 m以上)の順に高い.SRH-1およびSRH-3では年縞年代,Sr/Ca,Mg/Ca,炭素・酸素同位体比が,SRH-15では約600年分の年縞年代と炭素・酸素同位体比が既往研究で得られている(沖縄県立埋蔵文化財センター,2017b;佐々木ほか,2018).
研究方法: SRH-1およびSRH-3では新たに薄片を作製し,SRH-15では既存薄片(佐々木ほか,2018)を用いた.各石筍について年縞年代と年縞層厚を用い,西暦1400~1700年を対象として解析した.方解石の微細ファブリックはFrisia(2015)に従って分類した.
石筍記録と津波:石筍の成長速度は,SRH-15(346±157 µm/yr),SRH-3(134±71 µm/yr),SRH-1(58±29 µm/yr)の順に大きかった.明和津波直後の年縞層厚は,SRH-15では減少したのに対し,SRH-1およびSRH-3では一時的に増加した後,元の状態へ戻った.
微細ファブリックはC,Co,Ce,Cm,Mに分類され,滴下速度や季節性,Mg/Caと対応することから形成環境を反映する(Frisia,2015).SRH-1では明和津波前後に形成環境が一時的に不安定化した後,安定化した.SRH-3では安定・不安定環境が繰り返し認められ,SRH-15では相対的に不安定な状態が継続した.
年縞層厚,地球化学指標,微細ファブリックはいずれも形成環境の変化を反映し,特に標高の最も低いSRH-1では1771年明和津波に対応するシグナルが明瞭に認められた.SRH-1は標高が低く,上位を石灰岩のみが覆うため津波の影響を受けやすかったと考えられる.一方,SRH-3は標高が高く津波が到達しなかった可能性が高く,SRH-15では多層構造をもつ洞窟内での形成位置の違いが記録に影響したと推定される.
文献:Ando et al., 2018, Tectonophysics, 722, 265–276.; Araoka et al., 2013, Geology, 41, 919–922.; Frisia, 2015, Journal of Speleology, 44, 1–16.; Goto et al., 2011, Marine Geology, 269, 34–45.; 石原・吉村,2017,科学,87,537–542.; 河名・中田,1994,地学雑誌,103,352–376.; 沖縄県立埋蔵文化財センター,2017a,沖縄県立埋蔵文化財センター調査報告書,85.; 沖縄県立埋蔵文化財センター,2017b,沖縄県立埋蔵文化財センター調査報告書,86.; 佐々木ほか,2018,洞窟学雑誌,43,37–54.; 吉村ほか,2019,第四紀研究,58,195–209.: Wang et al., 2005, Science, 308, 854–857.
謝辞:本研究では,以下の科研費を利用した.南西諸島の洞窟に認められる旧石器人類遺跡とイベント堆積物の解析(20K04138),オセアニアの人類移住と島嶼間ネットワークに関わる考古学的研究(18KK0019),洞窟に記録された災害イベントとその島嶼文化・環境への影響に関する学際的研究(25K01081).
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