講演情報
[T11-P-3]九十九里平野における上ガス分布調査へのリモートセンシングの活用の検討
*荻津 達1、吉田 剛1、風岡 修2 (1. 千葉県環境研究センター、2. 元千葉県環境研究センター)
キーワード:
上ガス、リモートセンシング
イントロダクション
千葉県の九十九里平野などでは「上ガス」と呼ばれる天然ガス(メタン)の湧出現象が古くから知られている.上ガスは断層上に分布することが指摘され(石和田・品田, 1957),天然ガスの胚胎層である上総層群から断層などを経て上昇し地表に湧出していると考えられている(楡井・矢田, 1985). 風岡・他(2022)によると,東金市,大網白里市及び九十九里町の調査済範囲における上ガスの湧出量は日量約3万6000㎥にも及ぶと見積もられており無視できない量である.
メタンは二酸化炭素の20倍以上の温室効果があること,稲に青立ちと呼ばれる生育異常を引き起こすこと,建物の爆発・火災等のリスクを引き起こすことなどから,上ガスの分布を正確に把握しその湧出量を推定すること,そしてその発生を支配する地質構造と上昇メカニズムを明らかにすることは非常に重要である.
これまで,九十九里平野周辺の陸上における調査では,湛水している水田等において湧出しているメタンの泡を目視で確認しその分布範囲の把握や流出量の推定を行っている(風岡, 2009-2022).現地調査は水田が湛水している時期に限られ徒歩で行うため,広範囲の調査は容易ではなく1シーズンで調査できる範囲も限られている.そのためより効率のよい調査方法を検討する必要がある.
本研究では上ガスの分布調査をより効率的に行うことを目標に,これまでの現地調査結果と衛星によるリモートセンシングデータをもとにした教師あり機械学習を用いて上ガスの分布予測を行いその有効性について検討した.
推定方法
メタンガスの流出や海上におけるメタンガス湧出を衛星リモートセンシングで検出する試みは多くされているが,今回研究対象としている地域の上ガスは,人為的な事故等による漏洩と異なり継続的に湧出していること,湧出箇所が広く分布していることが多く単位面積あたりの湧出量は必ずしも多くないと見込まれることなどから,メタンそのものの分布を直接検出できるかは定かではない.そのため,各衛星のデータを全て説明変数として扱い,ピクセル毎に上ガスの有無について推定することとした.
データセット
教師データの作成においては,これまでに行われた東金市,大網白里市及び九十九里町における上ガスの分布調査結果(風岡, 2009-2022)を用いて,上ガスのカーネル密度分布を作成しこれを目的変数とした.説明変数としては光学衛星及びSAR衛星の画像を使用した.Sentinel-2の各バンドとそれを用いて求めたNDVI, NDRE, GNDVI, ,SAVI, VARI, GRVI, NDWI, Landsat-8及び9の各バンド並びにSentinel-1のVV,VH及びVV/VHの全30バンドを対象とし,これを異なる3時期(冬季:植生がない時期,春季:田植え前後の時期,夏季:稲刈り直前の時期)の合計90バンドのデータセットを作成した.また,この90バンドに加え,対象とするピクセルの周辺150m平均及び350m平均も加え合計で270チャンネルを説明変数とした.
学習
以上を教師データとしてLightGBM(Ke et al., 2017)により2値分類の学習を行った.評価指標はbinary loss及びAUCを用いた.また,エリアを分け空間交差検証を行い,最後にそれらのモデルをアンサンブルし上ガス分布の予測マップを作製した.
結果とまとめ
計算の結果,今回のモデルではAUCが0.7となり,かろうじて予測に使用出来るレベルであると考えられる.またモデルに寄与した特徴量は,上位を夏季の画像が占めており,1位がNDRE の350m平均,2位がNDREの150m平均であった.NDREは植物の葉に含まれるクロロフィル量を評価するために使われることから稲の青立ちがモデルに影響を与えている可能性が高い.実際の上ガスの分布と得られた予測マップとを比較すると,上ガスが高密度で湧出している場所についてはよく説明できているが,分布が疎で湧出量が少ない場所については説明できていない場合も多かった.本モデルを他地域に適用する場合,現地調査の前の予備調査として高密度で湧出している可能性の高い場所を把握するために用いることなどが考えられる.
今回の教師データは主に水田を調査したものであり,水田以外の場所に適用するのは難しい.また,現地調査は長期間に渡って行われたものの累積であり,その経年変化は考慮されていない.さらに,現地調査結果のカーネル密度分布の作成の際の誤差も大きいと推定される.これらを改善し予測精度の更なる向上を目指すとともに,現地調査を進め検討を行いたい考えている.
引用文献
石和田靖章・品田芳二郎(1957)地質調査所報告,no. 171,p. 1-28.
風岡修(2009-2022)千葉県環境研究センター年報.
風岡修・他(2023)日本地質学会第129年学術大会予稿集, T13-O-17.
Ke, G. et al.(2017) NeurIPS, 30, 3146–3154.
楡井久・矢田恒晴(1985)第四紀研究, 24(3), 247-252.
千葉県の九十九里平野などでは「上ガス」と呼ばれる天然ガス(メタン)の湧出現象が古くから知られている.上ガスは断層上に分布することが指摘され(石和田・品田, 1957),天然ガスの胚胎層である上総層群から断層などを経て上昇し地表に湧出していると考えられている(楡井・矢田, 1985). 風岡・他(2022)によると,東金市,大網白里市及び九十九里町の調査済範囲における上ガスの湧出量は日量約3万6000㎥にも及ぶと見積もられており無視できない量である.
メタンは二酸化炭素の20倍以上の温室効果があること,稲に青立ちと呼ばれる生育異常を引き起こすこと,建物の爆発・火災等のリスクを引き起こすことなどから,上ガスの分布を正確に把握しその湧出量を推定すること,そしてその発生を支配する地質構造と上昇メカニズムを明らかにすることは非常に重要である.
これまで,九十九里平野周辺の陸上における調査では,湛水している水田等において湧出しているメタンの泡を目視で確認しその分布範囲の把握や流出量の推定を行っている(風岡, 2009-2022).現地調査は水田が湛水している時期に限られ徒歩で行うため,広範囲の調査は容易ではなく1シーズンで調査できる範囲も限られている.そのためより効率のよい調査方法を検討する必要がある.
本研究では上ガスの分布調査をより効率的に行うことを目標に,これまでの現地調査結果と衛星によるリモートセンシングデータをもとにした教師あり機械学習を用いて上ガスの分布予測を行いその有効性について検討した.
推定方法
メタンガスの流出や海上におけるメタンガス湧出を衛星リモートセンシングで検出する試みは多くされているが,今回研究対象としている地域の上ガスは,人為的な事故等による漏洩と異なり継続的に湧出していること,湧出箇所が広く分布していることが多く単位面積あたりの湧出量は必ずしも多くないと見込まれることなどから,メタンそのものの分布を直接検出できるかは定かではない.そのため,各衛星のデータを全て説明変数として扱い,ピクセル毎に上ガスの有無について推定することとした.
データセット
教師データの作成においては,これまでに行われた東金市,大網白里市及び九十九里町における上ガスの分布調査結果(風岡, 2009-2022)を用いて,上ガスのカーネル密度分布を作成しこれを目的変数とした.説明変数としては光学衛星及びSAR衛星の画像を使用した.Sentinel-2の各バンドとそれを用いて求めたNDVI, NDRE, GNDVI, ,SAVI, VARI, GRVI, NDWI, Landsat-8及び9の各バンド並びにSentinel-1のVV,VH及びVV/VHの全30バンドを対象とし,これを異なる3時期(冬季:植生がない時期,春季:田植え前後の時期,夏季:稲刈り直前の時期)の合計90バンドのデータセットを作成した.また,この90バンドに加え,対象とするピクセルの周辺150m平均及び350m平均も加え合計で270チャンネルを説明変数とした.
学習
以上を教師データとしてLightGBM(Ke et al., 2017)により2値分類の学習を行った.評価指標はbinary loss及びAUCを用いた.また,エリアを分け空間交差検証を行い,最後にそれらのモデルをアンサンブルし上ガス分布の予測マップを作製した.
結果とまとめ
計算の結果,今回のモデルではAUCが0.7となり,かろうじて予測に使用出来るレベルであると考えられる.またモデルに寄与した特徴量は,上位を夏季の画像が占めており,1位がNDRE の350m平均,2位がNDREの150m平均であった.NDREは植物の葉に含まれるクロロフィル量を評価するために使われることから稲の青立ちがモデルに影響を与えている可能性が高い.実際の上ガスの分布と得られた予測マップとを比較すると,上ガスが高密度で湧出している場所についてはよく説明できているが,分布が疎で湧出量が少ない場所については説明できていない場合も多かった.本モデルを他地域に適用する場合,現地調査の前の予備調査として高密度で湧出している可能性の高い場所を把握するために用いることなどが考えられる.
今回の教師データは主に水田を調査したものであり,水田以外の場所に適用するのは難しい.また,現地調査は長期間に渡って行われたものの累積であり,その経年変化は考慮されていない.さらに,現地調査結果のカーネル密度分布の作成の際の誤差も大きいと推定される.これらを改善し予測精度の更なる向上を目指すとともに,現地調査を進め検討を行いたい考えている.
引用文献
石和田靖章・品田芳二郎(1957)地質調査所報告,no. 171,p. 1-28.
風岡修(2009-2022)千葉県環境研究センター年報.
風岡修・他(2023)日本地質学会第129年学術大会予稿集, T13-O-17.
Ke, G. et al.(2017) NeurIPS, 30, 3146–3154.
楡井久・矢田恒晴(1985)第四紀研究, 24(3), 247-252.
コメント
コメントの閲覧・投稿にはログインが必要です。ログイン
