講演情報
[T7-P-29]下北半島の未分化玄武岩から読み解く中新世島弧マグマの特徴:SN-010深部掘削コアを用いた岩石学的検討
*清水 空1、市山 祐司1、田村 明弘2、森下 知晃2 (1. 千葉大学、2. 金沢大学)
キーワード:
中新世、東北日本弧
東北日本弧では、中新世の日本海拡大に伴う大規模なテクトニクスの変化が生じ、島弧の回転やリフティング、火山フロントの移動とともにマグマ活動の性質も大きく変化した。この時期の火山岩類は、日本海拡大に伴うマントルウェッジの熱・化学構造の変化や、スラブ由来成分の供給様式を記録する重要な研究対象である。青森県下北半島の東部には、中新世の火山フロントを構成していた泊火山岩類が分布する。泊火山岩類は4つの火山活動期に対応する岩相ユニットに区分されており、第Ⅰ期の金津山安山岩、第Ⅱ期の月山安山岩(下部)と泊玄武岩(上部)、第Ⅲ期の鷹架安山岩、第Ⅳ期の吹越安山岩から構成されている[1]。このうち第Ⅱ期の泊玄武岩には、MgOに富む未分化玄武岩の存在が知られ [2]、起源マントルの組成や部分溶融条件、スラブ流体・堆積物メルトの寄与を復元する上で重要な岩石である。
2014~2016年に青森県むつ市中野沢で原子力規制庁によるボーリング調査で得られたSN-010コア (1484m長)では、深度308 m以深から泊火山岩類が確認された[3]。SN-010コアは風化の影響をほとんど受けていない連続試料であり、泊火山岩類を形成したマグマの進化過程を詳細に復元できる貴重な試料である。相澤ほか(2023)は、全岩化学組成に基づき、コア深度990–1016 mの一連の溶岩を泊玄武岩に対比したが、対比した試料が分化した玄武岩質安山岩であるため、これらが泊玄武岩に相当するか検討の余地がある。本研究では、SN-010コアから採取された火山岩類を対象に、岩石記載、EPMAによる鉱物化学組成分析、全岩主要・微量元素分析を行い泊玄武岩に対比される未分化玄武岩の存在を再検討する。そして、SN-010コア全体の岩石学的特徴を検討するとともに、東北日本の他地域に産する玄武岩類との岩石学的特徴の比較を行い、泊火山岩類を形成した中新世島弧マグマの特徴づけを行う。
SN-010コア全体で深度に関係なくクロムスピネルを含む玄武岩が確認され、クロムスピネルのCr#は泊玄武岩と同等の高い値(0.48-0.76)を示す。そのような試料の全岩化学組成はFeO*/MgO=1.11-1.18、Ni=144-188ppmと比較的未分化で、泊玄武岩とよく一致することから、SN-010コアの989 m以深は泊玄武岩に対比される可能性が高い。SN-010コアの浅部試料と深部試料では、異なる岩石学的特徴を示す。深部試料ではCaOに富み、SrやEuで正異常が認められることから、斜長石の集積が考えられる。また、クロムスピネルのCr#は深部から浅部に向かって増加する傾向が見られ、マントルの部分溶融程度の増加が示される。その一方で、深部試料のLa/Smは浅部試料よりも小さく部分溶融程度の違いでは説明できない。また、Th/Ybは深部よりも浅部で高い。これらのことは、流体の流入量およびスラブメルトの関与が浅部試料と深部試料で異なっていたことを示している可能性がある。
斜長石–メルト含水計[4]を用いた推定では、SN-010コア全体で0.94-4.77wt%を示す。また、同程度のFeO*/MgO比をもつ現在の東北日本弧の玄武岩類と比較すると、泊玄武岩の推定含水量は全体として低い。この特徴は、クロムスピネルの低いYFe値から推定される低酸素フガシティ条件とも調和する。さらに、泊玄武岩は中新世の霊山玄武岩や現在の東北日本弧玄武岩と比較してCe/Smに富み、Th/Ybにやや富む特徴を示す。これらの地球化学的特徴は、泊玄武岩の起源マントルが堆積物メルト成分を含むスラブ由来流体による交代作用を受けた一方、H₂O供給量は現在の東北日本弧より少なかったことを示唆する。以上の結果から、泊火山岩類は現在の東北日本弧玄武岩とは異なるマントル条件下で形成されており、日本海拡大期におけるマントルウェッジの化学的性質やスラブ由来成分の供給様式の違いを反映している可能性が示される。
参考文献
[1] Takimoto, 1994, Sci. Rep. Niigata Univ, 9, 25-88.
[2] 滝本, 1986, 岩石鉱物鉱床学会誌, 81, 93-104.
[3] 相澤, 2023, 地質学雑誌, 129, 587-602.
[4] Ushioda, 2014, Earth, Planets and Space, 66, 127.
2014~2016年に青森県むつ市中野沢で原子力規制庁によるボーリング調査で得られたSN-010コア (1484m長)では、深度308 m以深から泊火山岩類が確認された[3]。SN-010コアは風化の影響をほとんど受けていない連続試料であり、泊火山岩類を形成したマグマの進化過程を詳細に復元できる貴重な試料である。相澤ほか(2023)は、全岩化学組成に基づき、コア深度990–1016 mの一連の溶岩を泊玄武岩に対比したが、対比した試料が分化した玄武岩質安山岩であるため、これらが泊玄武岩に相当するか検討の余地がある。本研究では、SN-010コアから採取された火山岩類を対象に、岩石記載、EPMAによる鉱物化学組成分析、全岩主要・微量元素分析を行い泊玄武岩に対比される未分化玄武岩の存在を再検討する。そして、SN-010コア全体の岩石学的特徴を検討するとともに、東北日本の他地域に産する玄武岩類との岩石学的特徴の比較を行い、泊火山岩類を形成した中新世島弧マグマの特徴づけを行う。
SN-010コア全体で深度に関係なくクロムスピネルを含む玄武岩が確認され、クロムスピネルのCr#は泊玄武岩と同等の高い値(0.48-0.76)を示す。そのような試料の全岩化学組成はFeO*/MgO=1.11-1.18、Ni=144-188ppmと比較的未分化で、泊玄武岩とよく一致することから、SN-010コアの989 m以深は泊玄武岩に対比される可能性が高い。SN-010コアの浅部試料と深部試料では、異なる岩石学的特徴を示す。深部試料ではCaOに富み、SrやEuで正異常が認められることから、斜長石の集積が考えられる。また、クロムスピネルのCr#は深部から浅部に向かって増加する傾向が見られ、マントルの部分溶融程度の増加が示される。その一方で、深部試料のLa/Smは浅部試料よりも小さく部分溶融程度の違いでは説明できない。また、Th/Ybは深部よりも浅部で高い。これらのことは、流体の流入量およびスラブメルトの関与が浅部試料と深部試料で異なっていたことを示している可能性がある。
斜長石–メルト含水計[4]を用いた推定では、SN-010コア全体で0.94-4.77wt%を示す。また、同程度のFeO*/MgO比をもつ現在の東北日本弧の玄武岩類と比較すると、泊玄武岩の推定含水量は全体として低い。この特徴は、クロムスピネルの低いYFe値から推定される低酸素フガシティ条件とも調和する。さらに、泊玄武岩は中新世の霊山玄武岩や現在の東北日本弧玄武岩と比較してCe/Smに富み、Th/Ybにやや富む特徴を示す。これらの地球化学的特徴は、泊玄武岩の起源マントルが堆積物メルト成分を含むスラブ由来流体による交代作用を受けた一方、H₂O供給量は現在の東北日本弧より少なかったことを示唆する。以上の結果から、泊火山岩類は現在の東北日本弧玄武岩とは異なるマントル条件下で形成されており、日本海拡大期におけるマントルウェッジの化学的性質やスラブ由来成分の供給様式の違いを反映している可能性が示される。
参考文献
[1] Takimoto, 1994, Sci. Rep. Niigata Univ, 9, 25-88.
[2] 滝本, 1986, 岩石鉱物鉱床学会誌, 81, 93-104.
[3] 相澤, 2023, 地質学雑誌, 129, 587-602.
[4] Ushioda, 2014, Earth, Planets and Space, 66, 127.
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