講演情報

[T7-P-33]炭化木の特性を用いた火砕流堆積物の定置温度と冷却時間の推定

*中野 敬太1、坂口 有人2、岡崎 紀俊1 (1. 北海道立総合研究機構、2. 山口大学)
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キーワード:

炭化木、火砕流堆積物の定置温度

【はじめに】   
 火砕流堆積物の定置温度は、噴火様式や火砕流の流動特性、堆積過程を解明する上で重要な指標である。また、火砕流発生後には大量の堆積物が斜面上に残され、降雨によって土石流などの二次災害が発生することが知られている。一方、火砕流堆積物が高温である間は降雨が蒸発しやすく、土石流は発生しにくいと考えられている(西田・水山,1998)。このため、火砕流堆積物がどの程度の期間高温状態を維持するのかを明らかにすることは、二次災害の発生時期や火山防災を検討する上で重要である。火砕流堆積物の定置温度推定には熱残留磁化法が広く用いられている。しかし、主な磁性鉱物であるマグネタイトのキュリー点は約580℃であり、本手法は離散的な温度指標に基づくため、低温域から高温域までを連続的にカバーすることが難しく、さらに磁性鉱物の少ない試料では測定が困難である。一方、低温域から高温域までをカバーする手法として、炭化木の反射率を利用した定置温度計も提案されている(例えば、Correia et al., 1974;氏家ほか,2011)が、従来の反射率測定法では、炭化木組織全体の平均的な反射率を評価することが一般的であり、木質部に比べて反射率が著しく低い細胞腔や割れ目などの空隙を避け、木質部のみを選択的に測定することは困難であった。そのため、火砕流のような短時間・高温加熱条件に対応した高精度な定置温度推定法は、いまだ十分に確立されていない。   
【手法】  
 トドマツ(針葉樹)およびシラカンバ(広葉樹)を350~700℃で種々の時間加熱し、炭化試料を作製した。加熱後の試料は、坂口・向吉(2011)が開発した微小な有機物粒子のための反射率測定装置を用いて測定した。本装置は、顕微鏡下で数十μmスケールの微小領域の測定が可能なため、炭化木組織中の細胞腔や割れ目などの空隙を除外し、木質部のみの炭化木の反射率を高精度に測定することが可能である。得られた反射率と加熱温度との関係から温度換算式を構築し、十勝岳望岳台付近の約3,300年前の十勝岳グラウンド火口噴火による火砕流堆積物中の炭化木へ適用した。さらに、推定した定置温度および火砕流堆積物周辺の岩石などの熱物性値を初期条件として、熱拡散方程式を用いた有限差分法により解析し、冷却時間を推定した。   
【結果・考察】   
 炭化試料の反射率は加熱温度の上昇に伴って系統的に増加し、被熱時間の影響を受けるものの約5時間で増加はほぼ頭打ちとなった。また、反射率と加熱温度との間には良好な相関が認められ、加熱温度 T(℃)と炭化試料の反射率 R(%)との関係は、(1)の式で示すことができる。                    
           T = 78 R + 305       (1)  
この温度換算式を十勝岳望岳台付近の約3,300年前の十勝岳グラウンド火口噴火による火砕流堆積物中の炭化木へ適用した結果、定置温度は約450℃程度と推定された。さらに、推定した定置温度を初期条件として熱拡散方程式を有限差分法により解析した結果、火砕流堆積物内部が約50℃まで冷却するには約1,000日を要することが示され、堆積物内部では長期間にわたり高温状態が維持されることが推定される。この試算結果は、火砕流堆積物が長期間高温状態を維持する可能性を示したKozu(1934)の知見とも整合的である。本研究で構築した定置温度推定法と冷却時間推定手法を組み合わせることで、火砕流堆積物の定置温度だけでなく冷却履歴を定量的に評価できることが示された。   
【引用文献】
Correia M, Maury R and Arai F(1974) Pau−SNPA, 8, 527-536.
Kozu, S. (1934) Tschermaks Mineralogische and Petrographische Mitteilungen, Neue Folge, 45, 133-174.
西田、水山(1998)砂防学会誌,51,11-18.
坂口、向吉(2011)地質学雑誌, 118, 240-244.
氏家、伊藤、小山(2011)地球科学,65,111-124.

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