講演情報
[T14-O-9]北陸西部の中世~近世石造物の石材と帯磁率
*先山 徹1 (1. NPO法人地球年代学ネットワーク 地球史研究所)
キーワード:
花崗岩、石造物、帯磁率、北前船、若狭湾
日本列島では中世から近世にかけて多くの石造物が作られ,流通してきた.江戸時代には北前船の運航により瀬戸内海各地の花崗岩類が日本海側に流通したことが知られている.航海の安全を祈願して船主が神社に奉納した鳥居・狛犬・石灯篭などの石造物が日本海沿岸各地の神社仏閣に残されている.一方中世(鎌倉時代~室町時代)には墓や供養塔として多くの五輪塔や宝篋印塔などが作られ,中には六甲山地の花崗岩のように船運を通して広域に流通したものが存在し,日本海沿岸各地での流通も考えられている.しかし,その実態は十分明らかになっているわけではなく,中世と近世では流通する石材が変わるのかどうかなど,不明なことが多い.本発表では京都府北部・福井県・石川県・富山県の日本海沿岸地域を中心に,中・近世石造物の石材調査を行い,石材比較のため帯磁率を測定した(携帯用帯磁率計KT-10・Terraplus社製 を使用).中世の石材については各自治体の文化財に指定されているものと既存の報告書(狭川・松井編,2012など)からピックアップした.また近世のものについてはそれらに加えてインターネットの情報(たとえばgoogle map)からピックアップして現地調査をおこない,花崗岩製で年号が明記されている物のみを扱った.近世の花崗岩製石造物については,金沢市内の社寺を集中して調査した.その結果年号が刻まれている石造物は10カ所の神社で17基あり,いずれも低い帯磁率を有する.金沢周辺では花崗岩石材産地が見当たらず,また最も近い山地である若狭湾地域でも花崗岩の多くは磁鉄鉱に富むものが多いことから,これらの花崗岩は瀬戸内地域からもたらされたと考えられる.同様の瀬戸内花崗岩製石造物は金沢市以外では坂井市・野々市市・白山市・加賀市・輪島市・能登市・高岡市・射水市内に分布する14の社寺で確認できた.それに対して若狭湾周辺の地域では瀬戸内地域の花崗岩は少なく,多くは宮津など地元の花崗岩類が使われていた.それに対して中世石造物の石材は地域によって明瞭に異なり,丹後半島から若狭湾にかけての地域は大部分が花崗岩の石造物からなる一方,福井県嶺北地方から石川県・富山県にかけては凝灰岩類が多く,能登半島東部から富山湾では砂岩,富山県東部では安山岩が伴われる傾向がある(図1).北陸西部~丹後半島の花崗岩製中世石造物には大きく三種類が見られる.石材1はアルカリ長石が桃色を呈する粗粒黒雲母花崗岩で,帯磁率は1~6×10-3SIを示す.同様の岩石は敦賀半島から敦賀市南部にかけて分布する江若花崗岩(栗本ほか,1999)と似ている.石材2は白雲母花崗岩で帯磁率0.02~0.06×10-3SIで中江ほか(2002)の雲谷山花崗岩と一致する.石材3は中粒角閃石黒雲母花崗閃緑岩で6~10×10-3SIの高い帯磁率を有し,京都府宮津市周辺に分布する花崗閃緑岩と類似する.このように丹後~若狭地域の花崗岩製中世石造物は大部分地元の花崗岩石材で構成されている.また,福井県嶺北地方から能登半島にかけての中世石造物は多くが福井市足羽山付近で産出する笏谷石をはじめとする青緑色の凝灰岩や地元の砂岩・安山岩などからなる.以上のように,花崗岩が分布する若狭湾周辺では中世から近世を通じて地元の花崗岩が使用されてきたのに対して,花崗岩が産せず中世には凝灰岩が多く使用された福井県嶺北~能登半島西部では近世になって瀬戸内海地域からの花崗岩製石造物が多量にもたらされた.
文献
栗本史雄・内藤一樹・杉山雄一・中江 訓(1999)敦賀地域の地質.地域地質研究報告(5万分の1地質図幅),地質調査所,73p. 中江 訓・小松原 琢・内藤一樹(2002)西津地域の地質.地域地質研究報告( 5 万分の 1 地質図幅).産総研地質調査総合センター,90p. 中江 訓・小松原 琢・高橋裕平・吉川敏之(2013)今庄及び竹波地域の地質.地域地質研究報告( 5 万分の 1 地質図幅).産総研地質調査総合センター,110p.
狭川真一・松井一明編(2012)中世石塔の考古学-五輪塔・宝篋印塔の形式・編年と分布.高志書院,378p.
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