講演情報

[T14-P-6]変動帯日本列島が育んだ石硯の地体構造区分に基づく体系的分類と生成環境

*中山 健1、青栁 貴史2 (1. 高知大学海洋コア国際研究所、2. (株)宝研堂 製硯師)
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キーワード:

石硯、地質資源、日本列島地質構造発達史、硯熟成、文化遺産

 我が国では鎌倉時代になると,それまでの陶器製硯に代わり,堅牢な石製の硯が普及しはじめた.社会の安定した江戸時代中~後期から明治時代にかけて市民生活に欠かせない文具の一つとなり,日本各地で生産された.しかしながら,どんな岩石でも硯に適している訳ではなく, 製作者および利用者である書画家などの経験から,加工が容易で墨が滑らかに磨れ,かつ筆を損耗させない緻密で美観に優れた岩石が硯の原石として選ばれてきた.こうした条件を満たす岩石として,主に泥質岩および赤(緑)色頁岩(1970年代頃まで輝緑凝灰岩と称されていた)が使用されてきた.各地の石硯発祥の背景とその来歴は,伝承によるところも少なくないが,殆どの硯製造は明治時代以前に始まった.近年の需要激減や後継者不足により,現在国内で石硯の製造を行っているのは,僅か10か所前後になった.実用性もさることながら美術工芸品として芸術性にも重点を置いた製作が行われており,国や県による伝統的工芸品あるいは無形文化財保持者の認定を受けている作家も少なくなく文化的価値が高い.これまでの硯の研究の多くは工芸・文化的側面や経験則に基づくもので,科学的視点とりわけ地質・鉱物学的視点から的研究は,寺田寅彦の磨墨の研究[1]を嚆矢として幾つかあるが,全国の石硯を対象とした体系的な研究は小貫義男[2]以降ほとんど知られていない.
 硯原石は日本列島で形成された地質資源であり,日本列島の地質特性と切り離して考えることは出来ない.国内には,かつて約80箇所の産地があったと言われているが[3],その中から代表的な30か所余りの硯原石について日本列島構造発達史[4]に照らして,テクトニックセッティングおよび生成環境について検討した.
 硯原石は地体構造区分に基づくと,ジュラ紀から新第三紀付加体【龍渓石*(長野県美濃帯),蒼龍石 *(高知県四万十帯),雨畑石*(山梨県瀬戸川帯),紅渓石**(宮崎県四万十帯)など】,非海成堆積体【赤間石**(山口県)など】,陸棚堆積体【紫雲石**(岩手県南部北上帯),雄勝石*(宮城県南部北上帯)】,グリーンタフ地域【諸鹿石*(鳥取県),奴奈川石*(新潟県)など】,瀬戸内火山岩類【虎間石***(愛媛県),天草石***(熊本県)】から産出する.これらはアンキ帯~エピ帯[5]に属する極低温変成作用を被ったもので,形成過程の違いから,(1)堆積物の埋積・圧密や構造運動により熟成した「構造熟成型」,(2)貫入岩の熱あるいは熱水作用により熟成した「熱熟成型」,(3)両者が重複した「構造・熱熟成型」の3類型に大別できる [6].こうした硯石熟成過程が,硯に求められる加工性,磨墨性および筆を傷めない組織を規定する.そのほかにもオフィオライト中の蛇紋岩【兒玉石(福島県御斉所帯)】や石灰岩【(豆斑石(高知県秩父帯?)】を原石とする硯も知られている.
 このように日本各地で産出し文字文化の発展に寄与してきた石硯は,変動帯日本列島の多様な地質資源を活用した文化的遺産であり,製作技術のみならず硯を介して生まれた文化とともにその地質学的価値についても将来に亘って継承していくことが望まれる.
*:泥質岩,**:赤(緑)色頁岩, ***:変質火山岩

引用文献
[1]Terada, T. et al. (1935) Scientific Paper of Institute of Physics and Chemical Research, XXVII, 75-92. ; [2]小貫義男 (1971) 地学研究, 22, 69-76, 155-161.; [3]北畠雙耳・北畠五鼎 (1980) 秋山叢書, 126p. ; [4]磯﨑行雄ほか (2010) 地学雑, 119, 999-1053. ; [5]Merriman, R.J. and Peacor, M. (1999) Low-Grade Metamorphism (Frey, M. and Robinson, D. eds.), 10-60, Blackwell Scientific Publ.; [6]中山ほか (2022) 資源地質, 72,95-114.

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