講演情報

[T3-O-4]沈み込み帯メランジュに記録された不均質な応力と変形機構

*駒木野 照太1、氏家 恒太郎1、イヨ トーマス1、重松 紀生2 (1. 筑波大学、2. 産業技術総合研究所)
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キーワード:

スロー地震、Block-in-matrix構造、応力集中、転位クリープ、引張破壊


 沈み込み帯メランジュには、硬いブロックが柔らかいマトリックスに取り囲まれることで特徴づけられるblock-in-matrix構造が発達する。このようなメランジュにおける不均質な変形が、スロー地震に関連したすべり挙動を生み出すと考えられてきた。数値モデルでは、ブロック間に形成される応力鎖による応力集中が脆性破壊をもたらし微動を引き起こす一方、スロースリップは応力鎖の解放によって生じることが指摘されている。しかし、応力鎖形成に伴うブロック内部における応力集中に関する地質学的証拠は十分に見出されていない。そこで本研究では、深部スロー地震発生域に相当する温度約500 ℃、緑簾石-青色片岩相の変成条件下で形成された長崎県西彼杵変成岩中の西樫山メランジュを対象に、ブロック内部における応力集中と、それをもたらす変形機構について検討を行った。 
 西樫山メランジュでは、緑泥石-アクチノ閃石片岩(CAS)に沿って粘性剪断が局所化し、沈み込み運動と調和的な剪断センスを示すS-C 構造が発達する。CASは、細粒アクチノ閃石と緑泥石からなるマトリックス中に、石英脈、粗粒アクチノ閃石、交代作用に伴って曹長岩化した泥質片岩、塩基性片岩のレンズを含むことで特徴づけられる。石英脈レンズは粘性剪断によりシグモイド状の非対称変形を示す一方で、粗粒アクチノ閃石レンズには粘性剪断による変形は認められない。電子線後方散乱回析による結晶方位解析の結果、CASおよび周囲の泥質片岩・塩基性片岩中の石英脈は強い結晶方位定向配列を示し、粒内の結晶方位差が大きいことから、主に転位クリープにより変形し動的再結晶が起こっていたと考えられる。粗粒アクチノ閃石レンズでアクチノ閃石は、c軸がせん断方向に対して平行な粒子において、波動消光が認められるとともに、局所方位差の高い領域が底面と平行に(c軸に対して垂直に) 発達し、微小な空洞の配列や割れ目を伴っている。また、c軸がせん断方向に対して高角をなす粒子において、約 120度の角度で交わる2方向のへき開に沿った引張破壊が顕著である。これらの特徴は、粗粒アクチノ閃石レンズにおいて転位クリープによる変形と引張破壊が共存していたことを示す。 
 石英脈を対象に差応力計および転位クリープ流動則を用いて求めた西樫山メランジュの剪断応力と歪速度は、それぞれ約25 MPa、約10-11 s-1であった。しかし、CAS中の石英脈では、剪断応力と歪速度がそれぞれ約52 MPa、約10-10 s-1に達するものが認められ、局所的に高応力および高歪速度が生じていたことが示唆される。一方、Hoek-Brown破壊規準を用いて求めた粗粒アクチノ閃石レンズの引張破壊に必要な応力は約113–334 MPaであった。角閃石の転位クリープ流動則を考慮すると、粗粒アクチノ閃石レンズでは歪速度が約10-13–10-11 s-1の条件下で転位クリープと引張破壊が共存し得る。 
 粗粒アクチノ閃石レンズで転位クリープと引張破壊が生じるために必要な応力は、石英脈レンズの転位クリープに必要な剪断応力を大きく上回る。露頭で計測したCASに占めるレンズの割合(約30–50 %)とBeall et al. (2019) の数値モデルに基づくと、粗粒アクチノ閃石レンズ内で引張破壊が生じるためには、レンズとマトリックスの間に約102–104の高い粘性コントラストが必要であることが明らかとなった。これは、粗粒アクチノ閃石レンズに粘性剪断による非対称変形が認められないこととも整合的である。CASマトリックスの粘性剪断変形は、細粒アクチノ閃石の溶解-析出クリープにより周囲の岩石よりも低い剪断応力・高い歪速度条件下で進行することが明らかになっている (Yamasaki et al., 2026) 。以上まとめると、粗粒アクチノ閃石レンズに認められる高応力下での転位クリープと引張破壊は、応力鎖の形成に伴う応力集中を反映している可能性がある。一方、CASマトリックスの変形は、応力鎖の解放に伴って粘性剪断が促進されたことを示唆する。


引用文献
Beall, A., Fagereng, Å., & Ellis, S. (2019). Strength of strained two-phase mixtures: Application to rapid creep and stress amplification in subduction zone Mélange. Geophysical Research Letters, 46, 169–178.
Yamasaki, Y., Ujiie, K., Yeo, T., Nishiyama, N. (2026). Deformation mechanisms and rheology of chlorite–actinolite schist and blueschist: Implications for creep behaviour along the slab-mantle interface. Journal of Structural Geology, 209, 105735.

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