講演情報
[T3-O-5]機械学習に基づく沈み込みプレート境界に沿った泥質片岩のシリカ溶脱・付加の広域的変化★2026年度学生優秀発表賞受賞★
*甘利 泰斗1、宇野 正起2、松野 哲士2、岡本 敦1 (1. 東北大学、2. 東京大学)
キーワード:
シリカシーリング、機械学習、沈み込み帯、泥質岩、鉱物脈
間隙水圧は断層強度に重大な影響を及ぼし、地震の再来周期に大きな影響を与えると考えられている。特に、沈み込むプレートの脱水による流体に伴ってシリカが移動・沈殿すると、透水性の低下を引き起こし、流体圧の上昇と断層強度の低下が起こり、最終的に地震の発生につながるという「断層バルブ挙動」が提案されている [1]。三波川変成帯はプレート境界を記録した代表的な高圧変成帯であり、泥質片岩の全岩化学組成の統計的な解析から、沈み込み帯の変成作用中にシリカが輸送されたことが示唆されている [2]。しかし、物質移動解析に必要である変成前の原岩の化学組成を知ることは困難であり、沈み込みプレート境界に沿った広域的なシリカの溶解・輸送・沈殿の空間的分布は不明である。
近年、発展してきた地球化学にビッグデータと、機械学習技術の組み合わせによって、玄武岩質変成岩の不動元素組成から原岩の微量元素組成を推定することが可能となった [3][4]。本研究では、その手法をもとに、泥質片岩の原岩の主要元素組成を推定する原岩再構築モデル(PRM)を開発し、高圧変成岩の調査、地球化学分析、機械学習による物質移動解析を統合して、沈み込み帯でのシリカ移動量の定量的評価を試みた。本研究でのPRMはTiO₂/Zr、Nb/Zr、Y/Zr、Th/Zr、Al₂O₃/Zrの6つの不動元素比から、SiO₂、TiO₂、Nb、Zr、Y、Th、Al₂O₃の濃度を推定する。13740個の堆積物データを学習し、SiO₂濃度は5〜6 wt%の精度で推定可能である。
研究地域は、三波川変成帯の汗見川地域であり、緑泥石帯から灰長石―黒雲母帯までピーク変成温度の範囲が288〜536℃[5]の15露頭から、泥質片岩を137試料採取した。また、ドローンを用いて露頭表面を撮影し、画像解析により脈面積を推定した。さらに薄片の元素マッピングにより、鉱物分布を評価し、XRF分析により全岩化学組成を測定した。
露頭の産状は変成度によって大きく変化した。緑泥石帯では厚さ0.1〜90 mmの石英脈が高密度に分布し、脈面積率は15%を示した。曹長石―黒雲母帯や灰長石―黒雲母帯では厚さ15 cm程度の石英脈が疎らに存在し、脈面積率は7.1%を示した。緑泥石帯の局所の試料では、高変成度帯の試料と比較して、石英の占有面積が1.5倍以上であることが確認された。緑泥石帯において最も石英脈が濃集していた露頭では、ラマン炭質物温度計法によりピーク変成温度293℃と推定された。全岩SiO₂とZr濃度はそれぞれ56〜85 wt%、56〜197 ppmを示し、緑泥石帯ではSiO₂に富みZrに乏しい傾向が、高変成度帯では逆の傾向が見られた。これらの岩石に機械学習モデルPRMを適用すると、原岩SiO₂は63〜76 wt%、Zrは96〜176 ppmに集中し、緑泥石帯ではシリカの付加、高変成度帯ではシリカの溶脱が生じたと示唆される。特に緑泥石帯の石英脈濃集帯の露頭では顕著なシリカ付加が確認された。
本研究で推定されたシリカ付加・溶脱量を変成度ごとに比べると緑泥石帯で最大+32 wt%の増加、高変成度の黒雲母帯では最大-9 wt%の減少を示した。この変成度によるシリカの減少と増加の傾向は、プレート境界に沿って、シリカが深部(~500℃)から浅部(~300℃)に輸送され、約300℃の沈殿した可能性を示唆する。この沈殿温度はスロー地震と通常地震の遷移領域に相当しており、特定の深度でシリカシーリングが起こり、沈み込み帯の地震活動に関与している可能性を示唆している。
[1] Audet and Burgman, 2014, Nature, 510, 389-392
[2] Yoshida et al., 2018, J Metamorph Geol., 36, 41-54
[3] Matsuno et al., 2022, Science Reports, 12, 1385
[4] Matsuno et al., 2025, JGR Machine Learning and Computation, 2, e2025JH000700
[5] Kouketsu et al., 2021, J Metamorph Geol., 39, 727-74
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