講演情報
[T3-O-6]3次元変形脈群法による愛知県領家帯における流体物質移動の定量化
*副島 祥吾1,2、ウォリス サイモン2 (1. 公益財団法人 深田地質研究所、2. 東京大学)
キーワード:
3次元有限変形、流体物質移動、モールサイクライド、変形鉱物脈、領家帯
地殻中の流体は、岩石流体反応や断層における有効法線応力の低下および熱・物質輸送を通じて、地震活動ならびに地殻の熱構造や組成の進化を支配する重要な要素である。近年、地球物理観測による内陸地殻流体の高度なマッピングが進められており、東北日本弧では、内陸地震震源域直下の深度10–20 kmにおける大規模な水流体リザーバーの分布と含水率が詳細に推定されている(Iwamori et al., 2025)。一方、現世地球物理観測から流体のフラックスや長期的な物質移動を制約する際にはモデル依存性による大きな不確実性が依然として残されている。本研究では、白亜紀火山弧の高温中部地殻に相当する愛知県本宮山地域の領家変成岩を対象に、変形石英脈群に記録された3次元変形と体積変化を解析することで、中部地殻における流体フラックスと物質移動量の定量化を試みた。
解析には、有限変形のMohr円を3次元へ拡張したMohr-cyclideを使用する3D変形脈群法を用いた(Soejima & Wallis, in review)。変形鉱物脈は、母岩とともに変形する過程で、短縮型、伸長型、短縮後伸長型、伸長後短縮型、非変形型などの形態タイプを示す。これらの形態は、それぞれの脈が変形期間に経験した伸縮履歴を反映しており、方位情報と合わせることで母岩の変形場の復元に利用できる。本研究では、野外で測定した各脈の3次元方位と形態タイプを入力し、それらを最もよく説明する3次元変形場モデルを探索する自動解析法を開発した。各候補モデルについて、その変形場のもとで各方位の物質線がどのような伸縮履歴を示すかを計算し、観察された形態タイプと一致しない場合には不一致の程度を連続的なペナルティとして評価した。探索は、パラメータ空間を広く調べる粗探索と、解の有力候補近傍を詳しく調べる密探索の2段階で行った。粗探索では、事前に作成した数万組のパラメータセットで構築された3次元変形モデルと野外データ(脈の方位と形態タイプ)を比較し、ペナルティ—順位曲線に基づくスクリーニングにより低ペナルティ候補を抽出した。さらに、同程度に良い解がパラメータ空間内で互いに離れて存在する可能性を考慮し、低ペナルティ候補を重み付きk-medoidsクラスタリングによって分類した。各クラスターの代表解は密探索の初期候補として用いられ、モンテカルロ探索によって最適解とその周辺のペナルティ分布を連続的に取得した。これにより、単一の最良解だけでなく、野外データが許容する代替解や解の非一意性も評価した。
本宮山地域の領家帯砂泥質変成岩13露頭で約600本の変形石英脈を測定・解析した結果、上盤西ずれの非共軸剪断を伴う東西伸長が推定され、先行研究と調和的であった。一部露頭では平面歪みからの有意な逸脱が認められ、特に新城トーナル岩体近傍では回転軸方向の伸長を伴うtransextensionが示唆された。さらに、多くの露頭で体積増加が検出され、地域平均の体積変化は約+20 vol.%と推定された。
体積増加は白色化・珪化した露頭で大きく、鉱物脈や紅柱石斑状変晶のプレッシャーシャドーの充填物は石英が主体であることなどから、体積増加はシリカに飽和した外部流体の流入に伴う石英沈殿を反映すると解釈される。体積増加を生じうる主な沈殿相として炭酸塩鉱物も考えられるが、全岩化学組成はほとんどの試料でSiO₂は70–80 wt.%に達する一方、CaOは3 wt.%未満である。仮にCaOをすべて方解石由来とみなしても岩石体積の数vol.%程度に留まるため、推定された体積増加の大部分を説明できない。以上のことから、本研究では体積増加をシリカ沈殿量の近似として扱い、シリカに飽和したH2O流体、温度勾配50 ℃/km、圧力勾配0.27 kbar/kmを仮定して、Ferry and Dipple(1991)のシリカ収支モデルにより時間積分水流体フラックスqvを見積もった。その結果、本宮山地域のqvは約1.4–3.1×105 m3/m2と制約された。主変形の期間として制約される領家広域変成作用から新城トーナル岩接触変成までの約30 Myrを上限の流体浸透期間とすると、平均流体フラックスは約5–10×10−3 m/yrであり、現世東北日本弧の地球物理モデルから推定される値と同程度である。以上より、本宮山地域の領家帯は、高温火山弧中部地殻における大規模な流体物質移動の化石記録を保持していると解釈可能である。[References] Iwamori et al. (2025). Communications Earth & Environment, 6(1), 373. Ferry & Dipple (1991). Geology, 19(3), 211-214.
解析には、有限変形のMohr円を3次元へ拡張したMohr-cyclideを使用する3D変形脈群法を用いた(Soejima & Wallis, in review)。変形鉱物脈は、母岩とともに変形する過程で、短縮型、伸長型、短縮後伸長型、伸長後短縮型、非変形型などの形態タイプを示す。これらの形態は、それぞれの脈が変形期間に経験した伸縮履歴を反映しており、方位情報と合わせることで母岩の変形場の復元に利用できる。本研究では、野外で測定した各脈の3次元方位と形態タイプを入力し、それらを最もよく説明する3次元変形場モデルを探索する自動解析法を開発した。各候補モデルについて、その変形場のもとで各方位の物質線がどのような伸縮履歴を示すかを計算し、観察された形態タイプと一致しない場合には不一致の程度を連続的なペナルティとして評価した。探索は、パラメータ空間を広く調べる粗探索と、解の有力候補近傍を詳しく調べる密探索の2段階で行った。粗探索では、事前に作成した数万組のパラメータセットで構築された3次元変形モデルと野外データ(脈の方位と形態タイプ)を比較し、ペナルティ—順位曲線に基づくスクリーニングにより低ペナルティ候補を抽出した。さらに、同程度に良い解がパラメータ空間内で互いに離れて存在する可能性を考慮し、低ペナルティ候補を重み付きk-medoidsクラスタリングによって分類した。各クラスターの代表解は密探索の初期候補として用いられ、モンテカルロ探索によって最適解とその周辺のペナルティ分布を連続的に取得した。これにより、単一の最良解だけでなく、野外データが許容する代替解や解の非一意性も評価した。
本宮山地域の領家帯砂泥質変成岩13露頭で約600本の変形石英脈を測定・解析した結果、上盤西ずれの非共軸剪断を伴う東西伸長が推定され、先行研究と調和的であった。一部露頭では平面歪みからの有意な逸脱が認められ、特に新城トーナル岩体近傍では回転軸方向の伸長を伴うtransextensionが示唆された。さらに、多くの露頭で体積増加が検出され、地域平均の体積変化は約+20 vol.%と推定された。
体積増加は白色化・珪化した露頭で大きく、鉱物脈や紅柱石斑状変晶のプレッシャーシャドーの充填物は石英が主体であることなどから、体積増加はシリカに飽和した外部流体の流入に伴う石英沈殿を反映すると解釈される。体積増加を生じうる主な沈殿相として炭酸塩鉱物も考えられるが、全岩化学組成はほとんどの試料でSiO₂は70–80 wt.%に達する一方、CaOは3 wt.%未満である。仮にCaOをすべて方解石由来とみなしても岩石体積の数vol.%程度に留まるため、推定された体積増加の大部分を説明できない。以上のことから、本研究では体積増加をシリカ沈殿量の近似として扱い、シリカに飽和したH2O流体、温度勾配50 ℃/km、圧力勾配0.27 kbar/kmを仮定して、Ferry and Dipple(1991)のシリカ収支モデルにより時間積分水流体フラックスqvを見積もった。その結果、本宮山地域のqvは約1.4–3.1×105 m3/m2と制約された。主変形の期間として制約される領家広域変成作用から新城トーナル岩接触変成までの約30 Myrを上限の流体浸透期間とすると、平均流体フラックスは約5–10×10−3 m/yrであり、現世東北日本弧の地球物理モデルから推定される値と同程度である。以上より、本宮山地域の領家帯は、高温火山弧中部地殻における大規模な流体物質移動の化石記録を保持していると解釈可能である。[References] Iwamori et al. (2025). Communications Earth & Environment, 6(1), 373. Ferry & Dipple (1991). Geology, 19(3), 211-214.
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