講演情報
[T3-O-12](招待講演)オマーンオフィオライト下部地殻―上部マントルの蛇紋岩化に伴う水素生成履歴の解読
*吉田 一貴1、岡本 敦2、大柳 良介2,3、藤井 昌和4,5、吉田 健太3、丹羽 尉博1,5、武市 泰男1,5、木村 正雄1,5 (1. 高エネルギー加速器研究機構、2. 東北大学、3. 海洋研究開発機構、4. 国立極地研究所、5. 総合研究大学院大学)
【ハイライト講演】蛇紋岩化に伴う水素生成は,生命の起源や天然水素資源の観点から注目される一方,水素生成を支配するFeの酸化還元挙動は十分に理解されていない.吉田氏はオマーンオフィオライトを対象に,反応と破壊が連成する蛇紋岩化の動的描像を明らかにしてきた.本講演では,地殻―マントル連続掘削試料と放射光XANES分析から,岩石に刻まれた水素生成の履歴を読み解く最新成果を紹介いただく. ※ハイライト講演とは...
キーワード:
蛇紋岩化反応、天然水素、オマーンオフィオライト、X線吸収端近傍微細構造
蛇紋岩化反応により生成する水素は、太陽光が届かず光合成が不可能な生物にとって極限環境ともいえる深海の熱水噴出孔における生命を支えており、生命の起源の解明や地球外生命の可能性を研究する上での重要なプロセスとして注目されている(1)。さらに近年、蛇紋岩化反応などの地質プロセスによって地下で生成される「天然水素」が、低コスト・クリーンなエネルギー資源として注目されている(2)。蛇紋岩化反応では、かんらん石や輝石といった反応鉱物中の2価の鉄(Fe²⁺)が水と反応し、蛇紋石や磁鉄鉱といった3価の鉄(Fe³⁺)を含む鉱物の生成と同時に、水が還元されることで水素が生成される。したがって、鉱物に含まれる鉄の濃度と化学状態(価数)を知ることが、水素生成プロセス理解の鍵となる。しかしながら、滴定法やメスバウアー分光法といった鉄の価数を評価する従来手法では、試料を粉砕して分析するため、反応の履歴を記録している岩石組織を破壊してしまうため、プロセスの詳細な理解が困難であった。そこで、著者らはX線吸収分光法(XAS)に着目して研究を進めてきた。微小ビームを走査させる手法や二次元検出器を用いた投影型のXAS測定により、粉砕を前提とする従来手法では困難な微小領域の分析や化学状態の二次元分布を評価することができる。本発表では、XASのうちX線吸収端近傍構造(XANES)の解析による鉄の化学状態分布の可視化・定量化と、それに基づく蛇紋岩化による水素生成プロセスの解明へ向けた取り組みについて紹介する(3)(4)。
本研究で対象とした試料は、Oman Drilling Project(5)により採取されたオマーンオフィオライトの陸上掘削コア試料である。使用した掘削コア試料は、オマーン南部のWadi Tayin岩体から採取されたもので、下部地殻から上部マントルにかけての連続掘削試料である。この地殻からマントルを貫くユニークな連続掘削試料に対し、放射光を用いた局所酸化状態分析を適用することで、海洋リソスフェアにおける岩石と水の反応による水素生成メカニズムについて、詳細かつ包括的な調査を行った。2次元イメージングXANES測定の結果から、蛇紋石の鉄の酸化状態が岩石組織ごとに異なることが明らかとなった。このことは、蛇紋岩化反応の進行段階によって異なる水素発生ステージがあったことを示唆している。メッシュ組織の蛇紋石は、すべての岩石種において0.18~0.48のFe³⁺/ΣFe値を示したのに対し、ダナイトやハルツバージャイト中の磁鉄鉱脈近傍の蛇紋石は、0.52~0.64というより高いFe³⁺/ΣFe値を示した。また、下部地殻の斑れい岩では反応の進行度合い・生成鉱物・岩石組織にバリエーションがみられた。反応が中程度の斑れい岩は、かんらん石が選択的に蛇紋岩化しており、磁鉄鉱が顕著に観察された。一方で、反応が進んだ斑れい岩は斜長石の変質や緑泥石化か見られ、磁鉄鉱の量が少なかった。緑泥石のFe3+/ΣFeは0.1以下で蛇紋石よりも低く、水素生成への寄与が小さいことが分かった。このことは、下部地殻の岩石は反応が進むほど水素生成が抑制されることを示唆している。一方、上部マントルの岩石は、反応が進行した試料でも磁鉄鉱が多く含まれており、水素生成が反応後期でも生じていた可能性が示唆された。
岩石に含まれる3価の鉄がすべて水の還元によるものであると仮定すると、発生した水素の量を見積もることができる。その結果、下部地殻の岩石は、反応の初期段階で岩石1 kgあたり24から366 mmolの水素を生成した可能性があり、これは、従来水素の主要な発生源と考えられてきた上部マントルにおける蛇紋岩化に伴う水素生成量(岩石1 kg あたり 71~393 mmolの水素)に匹敵する。これは、下部地殻の岩石も水素発生に寄与している可能性を示唆している。これらの結果から、生成される水素の量が反応の進行段階や岩石の種類によって異なることが示唆された。これらの手法は他の地域にも適用可能であり、水素資源ポテンシャルを評価するための地質的手法として活用できると期待される。
1) Kelley et al., Science, 307, 5714, 1428–1434 (2001)
2) IEA, Global Hydrogen Review 2025, (2025)
3) Yoshida et al., Am. Min., 111, 5, 757-766 (2025)
4) Yoshida et al., Geochim. Cosmochim. Acta, 418, 1–22 (2026)
5) Kelemen et al., Proceedings of the Oman Drilling Project, (2020).
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