講演情報

[T9-O-4]付加体堆積岩における酸化還元フロントの形成プロセスと元素の移行挙動

*野中 麻衣1、石寺 孝充1、天野 由記1、横山 立憲1、鏡味 沙耶1、久保田 満2、吉田 英一3 (1. 日本原子力研究開発機構、2. 株式会社ジック、3. 名古屋大学)
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キーワード:

地層処分、付加体、元素の移行挙動、酸化還元フロント

 地層処分において、地下環境が還元的であることは、放射性核種の移行を抑制するという点で重要である。高レベル放射性廃棄物は人間環境から数万年以上隔離する必要があるが、長期の時間スケールにおいては、隆起・侵食や地球規模の気候変動などにより、処分場を含む広域で地下水流動場が変化する可能性がある。ゆえに、長期変遷過程における地下水の地球化学的特性の変化を理解し、元素の移行・遅延への影響を示すことは、安全評価上、必要な視点であると考える。特に、日本の主要基盤岩類の一つである付加体では、剪断帯などの割れ目が発達しており、割れ目を介して地表から酸化性地下水が地下深部まで浸透することで、地下環境を酸化し、岩盤のバリア機能を低下させる可能性がある。
地層の酸化還元状態の履歴を示す指標に、酸化還元フロントがある。これは、還元状態の地層中にある鉱物が地下水の浸透により酸化され、酸化帯として二次的な元素の移行と濃集が生じる界面のことである。この現象は、例えば花崗岩を対象に報告[1]され、現象理解が進められているが、付加体では、その分布は報告されている[2]ものの、詳細な現象やバリア機能に対する影響についての理解は十分ではない。本報告では、付加体堆積岩を対象に、地下環境で形成された酸化還元フロント周辺の物質移行挙動を明らかにし、その形成プロセスについて検討した。

試料は既往研究[2]と同じ、九州四万十帯日向層群のボーリングコアを用いた。分析では、試料全体をX線コンピュータ断層撮影(CT)にて撮像し、酸化還元フロントの分布を把握した。これを元に分析位置を選定し、作成した薄片試料を、偏光顕微鏡、走査型電子顕微鏡(SEM)、エネルギー分散型X線分光(EDS)で観察するとともに、X線回折法(XRD)により含有鉱物の同定し、その分布を把握した。また、レーザーアブレーション誘導結合プラズマ質量分析(LA-ICP-MS)により、主要元素および希土類元素(REEs)のマッピングデータを取得した。

分析の結果、主要造岩鉱物は石英と長石類であり、酸化還元フロントの酸化帯では、構成鉱物の粒子間隙にオキシ水酸化鉄と考えられる鉱物が、酸化の影響のない領域(以下、非酸化帯)では、粒子間隙に粘土鉱物や炭酸塩と考えられる鉱物が観察された。また、酸化帯と非酸化帯の間に、長径最大150 µm、分布幅最大50 mmほどの空隙の目立つ領域(以下、遷移領域)が存在した。さらにEDS分析からは、非酸化帯では硫黄(S)が点々と分布していた一方で、酸化帯や遷移領域ではSはほぼみられなかった。XRD分析でも、黄鉄鉱(FeS2)のピークは非酸化帯、酸化帯、遷移領域の順に大きく、EDSの結果と整合的であった。LA-ICP-MSの結果から、酸化帯において、鉄(Fe)は縞状の濃集パターンを示した。マンガン(Mn)もFeと同様のパターンを示したが、濃集位置は異なり、Feよりも非酸化帯から遠い位置で濃集パターンが終了していた。

酸化還元フロント周辺の物質移行挙動は次の通りと推測される。酸化帯に産するオキシ水酸化鉄は、侵入してきた天水が、酸化剤となる酸素(O2)を供給し、酸化性地下水として黄鉄鉱を溶解させ、溶脱したFe2+がO2と結びつくことで沈殿したと考えられる。また、このオキシ水酸化鉄は、縞状に分布していた。これは、Fe2+がオキシ水酸化鉄として沈殿すると、地下水中のFe2+濃度は一旦低下するが、再度侵入した天水により、黄鉄鉱の溶解とオキシ水酸化鉄の沈殿が繰り返されたことを示唆する。遷移領域の空隙の形成要因については、黄鉄鉱は溶解後にFe2+を供給したが、次第に地下水中のO2が枯渇し、Feの沈殿まで及ばなかった領域として空隙が残されたとみられる。この現象は既往研究で報告されておらず、付加体堆積岩に特有の構造である可能性も含めて今後検討する。FeとMnの移行挙動については、ともに遷移元素で化学的性質が類似している一方で、酸化還元電位の観点からみてMnの方が酸化されやすい。そのため、濃集位置に差がみられたと推察される。この結果は、酸化帯の形成過程と整合的である。また、酸化還元フロントの形成によって生じたFeやMn酸化鉱物は、ウランなどの放射性元素の吸着機能に優れることがわかっている。つまり付加体堆積岩中の酸化還元フロントの形成は、地下深部が天水の侵入に伴って酸化したことを示す一方、酸化物がバリア機能を補う効果もあることを示唆する。今後は、このバリア機能の抑制・促進のバランス効果についても詳細に評価する予定である。

[1] 吉田ほか (2014) 地質学雑誌,Vol. 120. 327-343.
[2] Ono et al. (2016) Journal of Structural Geology, Vol. 87. 81-94.

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