講演情報

[G-P-5]北海道むかわ町における17世紀津波堆積物の分布標高の再検討

*加瀬 善洋1、仁科 健二1、小島 隆宏1、岡崎 紀俊1 (1. 北海道立総合研究機構)
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キーワード:

津波堆積物、津波浸水想定、北海道、17世紀

【背景】
北海道胆振沿岸では,過去数千年間に形成された厚い泥炭層が発達し,その間には1枚の津波堆積物が挟在され,その年代は17世紀である(髙清水,2013).この津波堆積物の分布標高は,苫小牧市勇払~厚真町浜厚真で最大約4 mであるのに対し,隣接するむかわ町東部では最大約8 mと顕著に高い(髙清水ほか,2007;日本海溝・千島海溝沿いの巨大地震モデル検討会,2022).このため,むかわ町東部の高い分布標高が,胆振沿岸域の津波浸水想定を引き上げる要因となっている.一方,むかわ周辺では地盤隆起を示唆する地形が認められることから,17世紀津波堆積物が堆積した後,地盤上昇により分布標高が高くなった可能性が考えられる.そこで本研究では,17世紀津波以降のむかわ沿岸域における地盤変動特性を明らかにすることを目的に調査を行った.
【調査地域・手法】
調査地域はむかわ町沿岸域である.本研究では,最も標高の低い地形面における17世紀の津波堆積物およびテフラの有無に着目し,最新の隆起イベントが17世紀の津波以降に生じたものか否かを検討した.まず,DEMを用いて地形面区分を行い,最も標高の低い地形面(地盤標高約1~1.5 m)を抽出した.次に,抽出した地形面において,ハンドオーガーやハンディジオスライサー(掘削長1 m)を用いて掘削を行い,試料を採取した.採取した試料を用いて,イベント堆積物の有無を把握するためのX線CT画像撮影,火山灰を構成する火山ガラスの化学組成を把握するためのEDS分析を行った.
【結果】
 鵡川河口の右岸側の海岸線から約300 m内陸の地点(地盤標高約1.5 m)で,ハンドオーガーによる掘削を行い,テフラ層序を確認できたことから,ハンディジオスライサーにより試料を採取した.この試料を用いてCT画像撮影を行った結果,泥炭層中に,3枚の火山灰層と,5枚の砂層の挟在を確認した.火山灰層は深度6~22 cm・深度22~34.5 cm・深度64 cm,砂層は深度36~37 cm・深度38~41 cm・深度44~45 cm・深度54.5~55 cm・深度58 cmに認められる.ここでは,上位の火山灰から順にVo-1–Vo-3,上位の砂層から順にMu-1–Mu-5と呼ぶ.なお,深度66 cm以深は泥炭質~有機質粘土からなる.
Vo-1–Vo-3を構成する火山ガラスの化学組成分析の結果,SiO2がそれぞれ約76%,約76–77%,約74%,K2Oがそれぞれ約1%,約2%,約5%,Al2O3がそれぞれ約11–12%,約12–13%,約10–11%である.
Mu-1–Mu-3は淘汰の良い細粒~極細粒砂からなり,Mu-1は正級化層理を示す.Mu-3直下には,材が認められる.Mu-4は中粒砂からなる.Mu-5は細粒砂が泥炭層中に散るような産状を示す.
【考察】
長期間にわたって静穏な湿地環境で形成された泥炭層に比べ,その間に挟在される3枚の火山灰層および5枚の砂層は短時間に形成されたと考えられることから,これらをイベント堆積物と認定した.
火山ガラスの化学組成分析結果および周辺地域のテフラ層序との対比から,Vo-1は樽前bテフラ(西暦1667年降灰;Ta-b),Vo-2は有珠bテフラ(西暦1663年降灰;Us-b),Vo-3は白頭山-苫小牧テフラ(西暦946年降灰;B-Tm)と同定された.また,テフラとの層序関係から,10世紀~17世紀の間に,少なくとも5枚の砂質イベント堆積物を見出した.このうち,Us-b直下のMu-1–Mu-3のいずれかは,内陸まで広く分布することが知られている17世紀の津波砂層(髙清水ほか,2007)に対比されると考えられる.
一方,標高の最も低い地形面においてB-Tmテフラが確認されたことから,本地形面を生じた隆起イベントはB-Tm降灰(10世紀)以前であると考えられる.また,仮にB-Tmテフラ降灰時の地盤標高が当時の海面高度とほぼ等しかったとしても,現在のB-Tmの分布標高約1 mとの差から,B-Tm降灰以降に生じた隆起は最大でも約1 mと見積もられる.
以上より,むかわ町東部における津波堆積物の現在の分布標高は,17世紀以降の地盤隆起では説明できず,津波発生当時の津波高(遡上高)を反映していると考えられる.したがって,現在の津波堆積物の分布標高を説明するように設定された波源および浸水想定は,現時点では過大評価とは言えないと結論づけられる.
【文献】髙清水,2013,地質雑.髙清水ほか,2007,第四紀研究.日本海溝・千島海溝沿いの巨大地震モデル検討会,2022.

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