講演情報
[G-P-8]鮮新世の古琵琶湖における固有種珪藻の進化
*小島 隆宏1 (1. 北海道立総合研究機構 エネルギー・環境・地質研究所)
キーワード:
古琵琶湖層群、珪藻化石、古代湖、Anagenesis、Praestephanos属
【はじめに】
琵琶湖は日本で最大かつ最古の湖である。また、世界でも有数の古代湖であり、60種以上の動植物の固有種が知られている。その地質学的歴史は約400万年前に遡り、琵琶湖の前身となった湖は古琵琶湖と呼ばれている。古琵琶湖およびその周辺環境で形成された古琵琶湖層群(鮮新-更新統)からは、現在の琵琶湖固有種やその祖先種と考えられる淡水生生物の化石が見つかっており、それらは古代湖における固有種や独自の生物相が成立する過程を理解する上で重要な記録である。
珪藻はガラス質の殻が堆積物中に保存されやすく、層序学的に連続して産出するため、化石記録から進化を検討する上で有用である。琵琶湖には2種の浮遊性珪藻の固有種が認められており、そのうちの1種Praestephanos suzukiiに至る系統について、琵琶湖湖底コアに基づき過去24万年間の進化史が復元されている(Saito-Kato et al., 2015)。一方、古琵琶湖層群からもP. suzukiiの祖先にあたる可能性がある珪藻化石が報告されており、その進化の歴史には関心が持たれている。
最近、古琵琶湖層群の調査から、最初期の古琵琶湖である大山田湖(4.0–3.5 Ma)、および後期鮮新世の阿山湖(3.2–2.6 Ma)におけるPraestephanos属珪藻の形態学的進化が明らかにされ、それらの進化様式に共通性があることが示された(Kojima et al., 2023, 2026a)。本発表では、これらの成果を紹介し、その重要性について述べる。
【鮮新世古琵琶湖におけるPraestephanosの形態学的進化】
大山田湖の堆積物である古琵琶湖層群上野層からは、形態的によく似たP. tokaiensisとP. miensisの2種が新種として記載された(Kojima et al., 2023)。両種の産出範囲はそれぞれ約3.9–3.8 Maと約3.8–3.7 Maであり、約3.8 Maに種の交替が認められた。交替層準付近では、形態の相違点の一つである殻面有基突起数にP. tokaiensisからP. miensisへと移行するような漸移的変化が認められる。このことから、2種は祖先・子孫関係にあると推定された。また、これら2種は大山田湖と水系的に接続していたと考えられている伊勢湾西岸地域の湖の堆積物(東海層群亀山層)からも見つかっており、当時の古琵琶湖水系の固有種であったと考えられる(Kojima et al., 2026b)。
阿山湖の堆積物である古琵琶湖層群阿山層・甲賀層からは、阿山湖の固有分類群と考えられるP. ninja、P. latus var. inferus、P. latus var. latus、P. kokaensisの3新種・1新変種が記載された(Kojima et al., 2026a)。このうち前者3分類群は互いに類似し、産出範囲はそれぞれ約3.1–2.9 Ma、約2.9–2.8 Ma、約2.8–2.7 Maである。形態計測の結果、約2.9 Maと約2.8 Maに、これら3分類群の形態的相違点である束線数と殻套高に連続的な変化が認められた。このことは、P. ninjaからP. latus var. inferusへ、さらにP. latus var. inferusからP. latus var. latusへ段階的な進化が生じたことを示唆している。
【進化の傾向とその重要性】
鮮新世の古琵琶湖において、約3.8 Ma、約2.9 Ma、約2.8 MaにPraestephanosの進化的イベントが認められた。これらはいずれも、子孫種の出現とほぼ同時に祖先種が絶滅する、種多様性の増加を伴わないアナジェネシス(anagenesis)様の進化を示す。このような進化のパターンは、現琵琶湖の堆積物コアに記録されたPraestephanosの進化的イベントでも確認されている(Saito-Kato et al., 2015)。したがって、同パターンは、古琵琶湖・現琵琶湖に固有なPraestephanosの系統における一般的な進化様式である可能性が示唆される。
古代湖の生物相は、一般に高い固有種の比率と高い多様性で特徴づけられる。一方、浮遊性珪藻においては、固有種の比率は高いものの、種多様性は極めて低いことが知られている。(古)琵琶湖のPraestephanosにみられる多様化を伴わない進化は、このような古代湖の浮遊性珪藻相の特徴と調和的である。したがって、これらの結果は、古代湖における固有種の成立過程を示すだけでなく、特徴的な珪藻相の形成過程を考える上でも重要な事例である。
【引用文献】
Kojima et al., 2023. Paleontological Research, vol. 28, 291–306.
Kojima et al., 2026a. Diatom Research, vol. 41, 1–26.
Kojima et al., 2026b. Island Arc, vol. 35, e70042.
Saito-Kato et al., 2015. Journal of Micropalaeontology, vol. 34, 165–179.
琵琶湖は日本で最大かつ最古の湖である。また、世界でも有数の古代湖であり、60種以上の動植物の固有種が知られている。その地質学的歴史は約400万年前に遡り、琵琶湖の前身となった湖は古琵琶湖と呼ばれている。古琵琶湖およびその周辺環境で形成された古琵琶湖層群(鮮新-更新統)からは、現在の琵琶湖固有種やその祖先種と考えられる淡水生生物の化石が見つかっており、それらは古代湖における固有種や独自の生物相が成立する過程を理解する上で重要な記録である。
珪藻はガラス質の殻が堆積物中に保存されやすく、層序学的に連続して産出するため、化石記録から進化を検討する上で有用である。琵琶湖には2種の浮遊性珪藻の固有種が認められており、そのうちの1種Praestephanos suzukiiに至る系統について、琵琶湖湖底コアに基づき過去24万年間の進化史が復元されている(Saito-Kato et al., 2015)。一方、古琵琶湖層群からもP. suzukiiの祖先にあたる可能性がある珪藻化石が報告されており、その進化の歴史には関心が持たれている。
最近、古琵琶湖層群の調査から、最初期の古琵琶湖である大山田湖(4.0–3.5 Ma)、および後期鮮新世の阿山湖(3.2–2.6 Ma)におけるPraestephanos属珪藻の形態学的進化が明らかにされ、それらの進化様式に共通性があることが示された(Kojima et al., 2023, 2026a)。本発表では、これらの成果を紹介し、その重要性について述べる。
【鮮新世古琵琶湖におけるPraestephanosの形態学的進化】
大山田湖の堆積物である古琵琶湖層群上野層からは、形態的によく似たP. tokaiensisとP. miensisの2種が新種として記載された(Kojima et al., 2023)。両種の産出範囲はそれぞれ約3.9–3.8 Maと約3.8–3.7 Maであり、約3.8 Maに種の交替が認められた。交替層準付近では、形態の相違点の一つである殻面有基突起数にP. tokaiensisからP. miensisへと移行するような漸移的変化が認められる。このことから、2種は祖先・子孫関係にあると推定された。また、これら2種は大山田湖と水系的に接続していたと考えられている伊勢湾西岸地域の湖の堆積物(東海層群亀山層)からも見つかっており、当時の古琵琶湖水系の固有種であったと考えられる(Kojima et al., 2026b)。
阿山湖の堆積物である古琵琶湖層群阿山層・甲賀層からは、阿山湖の固有分類群と考えられるP. ninja、P. latus var. inferus、P. latus var. latus、P. kokaensisの3新種・1新変種が記載された(Kojima et al., 2026a)。このうち前者3分類群は互いに類似し、産出範囲はそれぞれ約3.1–2.9 Ma、約2.9–2.8 Ma、約2.8–2.7 Maである。形態計測の結果、約2.9 Maと約2.8 Maに、これら3分類群の形態的相違点である束線数と殻套高に連続的な変化が認められた。このことは、P. ninjaからP. latus var. inferusへ、さらにP. latus var. inferusからP. latus var. latusへ段階的な進化が生じたことを示唆している。
【進化の傾向とその重要性】
鮮新世の古琵琶湖において、約3.8 Ma、約2.9 Ma、約2.8 MaにPraestephanosの進化的イベントが認められた。これらはいずれも、子孫種の出現とほぼ同時に祖先種が絶滅する、種多様性の増加を伴わないアナジェネシス(anagenesis)様の進化を示す。このような進化のパターンは、現琵琶湖の堆積物コアに記録されたPraestephanosの進化的イベントでも確認されている(Saito-Kato et al., 2015)。したがって、同パターンは、古琵琶湖・現琵琶湖に固有なPraestephanosの系統における一般的な進化様式である可能性が示唆される。
古代湖の生物相は、一般に高い固有種の比率と高い多様性で特徴づけられる。一方、浮遊性珪藻においては、固有種の比率は高いものの、種多様性は極めて低いことが知られている。(古)琵琶湖のPraestephanosにみられる多様化を伴わない進化は、このような古代湖の浮遊性珪藻相の特徴と調和的である。したがって、これらの結果は、古代湖における固有種の成立過程を示すだけでなく、特徴的な珪藻相の形成過程を考える上でも重要な事例である。
【引用文献】
Kojima et al., 2023. Paleontological Research, vol. 28, 291–306.
Kojima et al., 2026a. Diatom Research, vol. 41, 1–26.
Kojima et al., 2026b. Island Arc, vol. 35, e70042.
Saito-Kato et al., 2015. Journal of Micropalaeontology, vol. 34, 165–179.
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