講演情報
[G-O-10]北薩トンネル崩落に関する地質学的要因の解明
*向吉 秀樹1、尾原 千風2、谷川 亘3 (1. 島根大学、2. 島根大学(現 中日本航空株式会社)、3. 海洋研究開発機構 高知コア研究所)
キーワード:
北薩トンネル、パルバライズ、1997年鹿児島県北西部地震
鹿児島県薩摩郡さつま町泊野から同県出水市高尾野町柴引に至る国道504号北薩トンネルでは,2024年7月25日から27日にかけて,路面変状,覆工コンクリートの剥落,ならびにトンネル内への土砂流入および湧水が発生した.その主因として,豪雨に伴う地下水位の上昇によりトンネルに大きな水圧が作用したことが指摘されているが,その地質学的背景については十分に解明されていない.本地域周辺では1997年鹿児島県北西部地震(第一本震:M6.6,第二本震:M6.4)が発生しており(宮町ほか,1998),トンネル崩落箇所はその余震域内に位置する.トンネル崩落箇所の約1.5 km 東方では第一本震の余震分布と平行な走向で,第四紀層を切り,変位センスが第一本震の震源メカニズム解と調和的な断層露頭が報告されている(向吉ほか,2018).本研究では,上記断層と北薩トンネル崩落との関係について明らかにすることを目的とし,断層露頭周辺におけるレーザー測量による微地形解析,シュミットハンマーによる母岩の反発値測定,薄片観察および透水試験を実施した.
調査地域には中期中新世の花崗閃緑岩が分布する(宇都ほか,1997).調査の結果,断層露頭周辺では母岩である花崗閃緑岩に顕著な真砂化が認められた.断層面から直交方向に約50 m離れた地点では新鮮かつ硬質な花崗閃緑岩が露出するが,断層面に近づくにつれて風化が進行し,断層近傍では手で容易に崩せるほど真砂化していた.シュミットハンマーによる反発値も断層近傍ほど低く,多くの地点で10前後を示したのに対し,断層から約50 m離れた地点では30を超える値を示した.透水試験の結果,断層近傍では浸透率が約10^-13 m²と高い値を示したのに対し,反発値が30を超える比較的新鮮な花崗閃緑岩では約10^-17 m²であった.また,薄片観察の結果,断層近傍では石英や長石が鉱物粒子としての外形を保持したまま無数の微細クラックを伴うことが確認された.この特徴は,有馬-高槻構造線などで報告されているパルバライズ化の特徴(Mitchell et al., 2011)と一致することから,本地域の顕著な真砂化および岩盤の脆弱化には,断層活動に伴うパルバライズ化が寄与した可能性がある.
以上の結果から,向吉ほか(2018)が報告した断層露頭周辺では,断層活動に伴うパルバライズ化によって花崗閃緑岩の真砂化が進行し,周辺岩盤と比較して高い透水性を有するに至ったと考えられる.北薩トンネル崩落箇所は,この断層露頭の走向延長上に近接して位置する.また,断層露頭と崩落箇所の間には断層の走向とほぼ平行に高尾野川が流れ,断層露頭の一部は同河川の河床に露出している.これらのことから,2024年7月の豪雨時には,高尾野川に流入・集中した大量の河川水が,断層活動に伴うパルバライズ化によって高透水化した花崗閃緑岩中を選択的な地下水流動経路として移動し,トンネル周辺への地下水供給を著しく増加させた可能性が高い.したがって,北薩トンネルで発生した大規模な湧水および崩落は,豪雨による地下水位上昇に加え,断層活動に起因する岩盤のパルバライズ化とそれに伴う高透水帯の形成が重要な地質学的素因であったと考えられる.
宮町宏樹・岩切一宏・津野拓士・清水 力・福満修一郎・金子和弘・関谷 博・角田寿喜・後藤和彦・八木原寛・平野舟一郎・松島 健・清水 洋,1998,北海道大学地球物理学研究報告,61,85-97.
Mitchell T.M., Ben-Zion Y., Shimamoto T., 2011, Earth and Planetary Science Letters,308,284-297
向吉秀樹・林 広樹・内田嗣人・吉崎那都・武田哲也・後藤和彦・関根秀太郎・笠原敬司,2018,地質学雑誌,124,361-366.
宇都浩三・阪口圭一・寺岡易司・奥村公男・駒沢正夫,1997,20万分の1地質図幅「鹿児島」.地質調査所.
調査地域には中期中新世の花崗閃緑岩が分布する(宇都ほか,1997).調査の結果,断層露頭周辺では母岩である花崗閃緑岩に顕著な真砂化が認められた.断層面から直交方向に約50 m離れた地点では新鮮かつ硬質な花崗閃緑岩が露出するが,断層面に近づくにつれて風化が進行し,断層近傍では手で容易に崩せるほど真砂化していた.シュミットハンマーによる反発値も断層近傍ほど低く,多くの地点で10前後を示したのに対し,断層から約50 m離れた地点では30を超える値を示した.透水試験の結果,断層近傍では浸透率が約10^-13 m²と高い値を示したのに対し,反発値が30を超える比較的新鮮な花崗閃緑岩では約10^-17 m²であった.また,薄片観察の結果,断層近傍では石英や長石が鉱物粒子としての外形を保持したまま無数の微細クラックを伴うことが確認された.この特徴は,有馬-高槻構造線などで報告されているパルバライズ化の特徴(Mitchell et al., 2011)と一致することから,本地域の顕著な真砂化および岩盤の脆弱化には,断層活動に伴うパルバライズ化が寄与した可能性がある.
以上の結果から,向吉ほか(2018)が報告した断層露頭周辺では,断層活動に伴うパルバライズ化によって花崗閃緑岩の真砂化が進行し,周辺岩盤と比較して高い透水性を有するに至ったと考えられる.北薩トンネル崩落箇所は,この断層露頭の走向延長上に近接して位置する.また,断層露頭と崩落箇所の間には断層の走向とほぼ平行に高尾野川が流れ,断層露頭の一部は同河川の河床に露出している.これらのことから,2024年7月の豪雨時には,高尾野川に流入・集中した大量の河川水が,断層活動に伴うパルバライズ化によって高透水化した花崗閃緑岩中を選択的な地下水流動経路として移動し,トンネル周辺への地下水供給を著しく増加させた可能性が高い.したがって,北薩トンネルで発生した大規模な湧水および崩落は,豪雨による地下水位上昇に加え,断層活動に起因する岩盤のパルバライズ化とそれに伴う高透水帯の形成が重要な地質学的素因であったと考えられる.
宮町宏樹・岩切一宏・津野拓士・清水 力・福満修一郎・金子和弘・関谷 博・角田寿喜・後藤和彦・八木原寛・平野舟一郎・松島 健・清水 洋,1998,北海道大学地球物理学研究報告,61,85-97.
Mitchell T.M., Ben-Zion Y., Shimamoto T., 2011, Earth and Planetary Science Letters,308,284-297
向吉秀樹・林 広樹・内田嗣人・吉崎那都・武田哲也・後藤和彦・関根秀太郎・笠原敬司,2018,地質学雑誌,124,361-366.
宇都浩三・阪口圭一・寺岡易司・奥村公男・駒沢正夫,1997,20万分の1地質図幅「鹿児島」.地質調査所.
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