講演情報
[T6-O-13]石英脈群の方位解析による沈み込みプレート境界近傍の応力・駆動流体圧比の推定:西南日本丹波帯の例
*石田 昂汰朗1,2、佐藤 活志1、羽地 俊樹2 (1. 京都大学大学院理学研究科、2. 産業技術総合研究所地質調査総合センター)
キーワード:
応力逆解析、鉱物脈、沈み込み帯、丹波帯、プレート境界断層
間隙流体圧は断層の摩擦強度を大きく左右するため,断層の運動を理解するうえで重要な要素である.現在の沈み込み帯のプレート境界断層近傍では,一般に高い間隙流体圧が想定されている(例えば,Seno, 2009).西南日本弧の四万十帯においては,過去のプレート境界断層の近傍に発達する鉱物脈から,上載岩圧に近い高間隙流体圧が推定されている(Hashimoto & Eida, 2015; Otsubo et al., 2020; Hosokawa & Hashimoto, 2022).しかし,四万十帯以外の地質体において,過去のプレート境界断層近傍の間隙流体圧が高かったことを明示的に示した研究はほとんどない.
西南日本弧に分布する後期ジュラ紀の付加体が底付け付加された際,砥石型珪質粘土岩と呼称される遠洋性堆積岩の層準にプレート境界断層が発達していたと考えられている(例えば,中江,1993;木村,2000).この際,砥石型珪質粘土岩の上位に堆積していた層状チャートが不透水層として機能し,プレート境界近傍の間隙流体圧を高めていたという仮説がある(小川・久田,2005;Yamaguchi et al., 2016).しかし,実際に間隙流体圧が高かったことを示す直接的な証拠は提示されていない.
そこで演者らは,後期ジュラ紀の付加体に発達する石英脈群を対象とし,過去のプレート境界断層近傍の間隙流体圧を検討した.本研究では,後期ジュラ紀の付加体である丹波帯I型地層群が露出する京都市の芦見谷とイザナミ谷で調査を行った.芦見谷とイザナミ谷は,およそ110~100 Maに形成された(木村,2000;林ほか,2010),半波長約10 kmの正立褶曲である周山シンフォームの南翼と北翼にそれぞれ位置する.両地域では,過去のプレート境界断層と解釈される断層の近傍に,石英脈が集中的に発達する地点が認められた.演者らは,石英脈群の形成時期を周山シンフォーム形成との前後関係から制約することを試みた.具体的には,石英脈群の方位分布を用いた応力逆解析(Yamaji & Sato, 2011)により古応力を推定し,周山シンフォームの変形を補正したうえで,両地域の応力が一致するかどうかを検討した.解析には,調査地域内の5地点で測定した約600枚の石英脈の方位を用いた.
褶曲による変形を補正した結果,芦見谷・イザナミ谷の両地域から,概ね北西-南東トレンドの水平なσ1軸(σ1≥σ2≥σ3は圧縮を正とした主応力)を持つ応力が共通して得られた.この結果から,石英脈群は周山シンフォーム形成期(110~100 Ma)よりも古い時期に形成されたと考えられる.また,σ1軸のトレンドは,後期ジュラ紀のプレート収斂方向(Liu et al., 2017)と概ね調和的であった.そのため,推定された応力はプレート境界断層を駆動していたものとして矛盾しないと考えられる.
さらに,応力逆解析の結果に基づき,間隙流体圧の指標となる駆動流体圧比 (p-σ3)/(σ1-σ3)(pは間隙流体圧)を見積もった.ここでは,最適化されたビンガム分布の95パーセンタイル点に相当する法線応力(DPI, driving pressure index; Faye et al., 2018)を,駆動流体圧比の代表値として算出した.算出されたDPIは,上載岩圧を上回る値を示した.このことから,石英脈群がプレート境界断層近傍で形成されたものであるならば,少なくとも瞬間的には,間隙流体圧が上載岩圧を超えるほど高くなっていたと考えられる.ただし,本研究の調査地域では,過去のプレート境界断層近傍に必ずしも石英脈が集中的に発達していたわけではなく,ほとんど石英脈がみられない地点も存在した.そのため,間隙流体圧の上昇は局所的だった可能性もある.
引用文献
Faye et al., 2018, J. Struct. Geol., 110, 131–141. Hashimoto & Eida, 2015, Tectonophysics, 665, 17–22. 林ほか,2010,地質雑,116,283–286.Hosokawa & Hashimoto, 2022. Sci. Rep., 12, 14789. 木村,2000,地質論集,55,181–202.Liu et al., 2017, Earth Sci. Rev., 175, 114–142. 中江,1993,地調研報,44,471–481.小川・久田,2005,付加体地質学,共立出版,174p.Otsubo et al., 2020. Sci. Rep., 10, 12281. Seno, 2009, J. Geophys. Res.: Solid Earth, 114, B05405. Yamaguchi et al., 2016, Tectonophysics, 686, 146–157. Yamaji & Sato, 2011, J. Struct. Geol., 33, 1148–1157.
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