講演情報
[T16-P-8]鹿児島県種子島北部および中部に分布する熊毛層群の地質年代と構造
*菊川 照英1,3、相田 吉昭2 (1. 千葉県立中央博物館、2. 宇都宮大学、3. 名古屋大学)
キーワード:
放散虫、付加複合体、始新世、漸新世、地質図
熊毛層群は南西諸島の屋久島と種子島、馬毛島に分布する古第三紀の付加複合体とされ(斎藤,2022),当時のプレート沈み込みに伴う堆積作用や構造運動を知る上で重要な地質体である.近年,種子島北部に分布する熊毛層群の地質に関する研究が進み,その層序や構造,年代に関する理解が深まりつつある(菊川ほか,2018,2024).一方で,本層群が広く分布する種子島中部では,その分布域や構造に不明な点が多い.そこで本研究では,本島中部に分布する熊毛層群を対象に,放散虫化石による地質年代の検討を行うと共に,地質図を作成して地層分布や地質構造を検討した.
種子島中部に分布する熊毛層群の各層(門倉岬層,立石層,西之表層)から合計271層準271個の泥岩およびコンクリーション試料を採取し,フッ化水素酸溶液による酸処理を行った.結果,赤色泥岩,灰色泥岩およびコンクリーションの合計7試料から年代制約に有効な放散虫化石が産出した.
本島中部の内陸部に分布する門倉岬層は,赤色泥岩や砂岩泥岩互層から構成される地質体が断層によって積み重なる構造をしている.その構造的最上位にあたるユニットの赤色泥岩中からはCalocyclas turrisやCryptocarpium azyx, Dictyoprora mongolfieriといった示準種が産出した.これらの種の生存期間(Nigrini et al., 2006; Kamikuri et al., 2012)を考慮すると,その年代は後期始新世(放散虫化石帯RP17帯〜RP19帯最下部)に相当する.一方,本島中部の西側と東側の海岸部に分布する西之表層は,コンクリーションを含む泥岩層を挟在する砂岩泥岩互層から主に構成される.このうち,調査地域の西海岸部に分布する本層中のコンクリーションからはArtophormis gracilisやTheocyrtis setaniosが,東海岸部に分布する灰色泥岩からはT. annosaやT. setaniosといった示準種が産出した.これらの種の生存期間(Nigrini et al., 2006; Kamikuri et al., 2012)を考慮すると,その年代はそれぞれ,前期漸新世後期(放散虫化石帯RP20c帯〜RP21a帯中部)と前期漸新世後期(RP21a帯下部)に相当する.
先述した各層の岩相や年代を考慮すると,本調査地域では島の中軸部に分布する門倉岬層を挟んで,その構造的上位の西側と構造的下位の東側に西之表層が分布する構造をとる.この構造的特徴は本島北部と同様の傾向であるが(菊川ほか,2024),これまで本島中部では言及されてこなかった.北部に分布する門倉岬層と西之表層から産出した放散虫化石も考慮すると,前者の年代は後期始新世(放散虫化石帯RP16帯下部〜RP19帯最下部)に,後者は前期漸新世後期(放散虫化石帯RP20c帯〜RP21a帯中部)に相当する.
この両層間の地層境界部や特徴的な赤色泥岩の分布を比較すると,本島北-中部の境界となる西之表断層(吉岡ほか,1985)以南で熊毛層群の分布域を大きく変化させる右横ずれ変位を示す断層が推定される.一方,約18 Ma前後に熊毛層群に貫入したと考えられているランプロファイア岩脈(小笠原,1997)は,主に西之表断層による左横ずれの変位のみ被っている.本調査では,この岩脈は本島中部では門倉岬層の赤色泥岩の近傍に,北部では西之表層の砂岩泥岩互層中に貫入していることが確認された.従って,この推定断層による右横ずれの変位は西之表層堆積後からランプロファイア貫入前にあたる後期漸新世〜前期中新世に形成されたと考えられる.この期間は,西南日本周辺では四国海盆の拡大や日本海拡大の最初期(例えば,Okino et al., 1994;星,2018)といった大規模なテクトニックイベントとも重なる.この様な広域テクトニクスと熊毛層群の構造的特徴などを合わせた南西諸島における古第三系の地史の復元が今後期待される.
【引用文献】
星,2018,地質雑,124,675-691.
Kamikuri et al., 2012, Stratigraphy, 9, 77-108.
菊川ほか,2018,地質雑,124,313-329.
菊川ほか,2024,地質雑,130,313-328.
Nigrini et al., 2006, Proc. ODP, Sci. Results, 199, 1–76.
小笠原,1997,岩鉱,92,454-464.
Okino et al., 1994, J. Geomag. Geoelectr., 46, 463-479.
斎藤,2022,日本列島地質総覧:地史・地質環境・資源・災害,337-349.
吉岡ほか,1985,活断層研究,1,97-106.
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