講演情報
[T16-P-25]現生自然ダム湖との比較による山岳湖の形成要因の検討:中央ネパール,タコーラ・ムスタングラーベンに分布する中新統,更新統の例
*庄司 瑞輝1、吉田 孝紀1、ギャワリ バブラム2、シルワル ビショウ3、島田 誠明1 (1. 信州大学、2. ポカラ大学、3. ネパール鉱山地質局)
山岳域の湖は,地すべりや断層活動による河川の堰き止めにより形成されることが多く,その堆積物は湖の形成過程や周辺環境の変化を記録する媒体として有用である.中央ネパール,タコーラ・ムスタングラーベン(Thakkhola Mustang Graben)に分布するThakkhola層とMarpha層には,それぞれ異なる岩相サイクルを示す湖成堆積物が見られるが,その湖の形成要因および岩相サイクルの変化要因については未解明な点が多い.そこで本研究では,両層を対象に,堆積相解析および現生アナログとの比較を行うことで,湖の形成要因および岩相サイクルの違いに影響を与えた要因について検討した.
タコーラ・ムスタングラーベンはインド–ユーラシア衝突後の伸張応力場で形成され,西縁にはグラーベン形成を規制したDangardzong Faultが発達する〔1〕.グラーベンを埋積する地層は,層序的下位よりTetang層(約11–8 Ma〔2〕),Thakkhola層(約8–2 Ma〔2〕),Sammargaon層(前期‒中期更新世〔3〕),Marpha層(約120–80 ka〔4〕),Kaligandaki層(完新世〔5〕)からなる.
Thakkhola層はグラーベン北部に広く分布し,Ghami,Dhakmar周辺では,約130 mにわたり塊状シルト・粘土岩と斜交層理を伴う礫岩・砂岩が互層する.斜交層理礫岩・砂岩は礫質‒砂質網状河川堆積物,塊状シルト・粘土岩は湖底堆積物,亜炭層を含む,もしくは級化する薄い砂岩層と互層するシルト岩は,湖畔湿地堆積物と解釈される.これらの堆積物が2‒3 m単位で繰り返されることから,小規模な湖の形成と消滅が繰返されていたと考えられる.一方,Marpha層はKagbeni‒Chimanggaun地域に分布し,厚いシルト・粘土層を主体とする.これらは薄い砂層を不規則に挟むが,数十‒百数十 mにわたり連続しており,深い湖底環境で堆積したと解釈される.このように厚く連続する泥質堆積物の存在から,Marpha層の湖は大規模かつ安定していたと考えられる.
チベット高原南西部のPare Chu流域では,2004年の地すべりによってPare Chu川が堰き止められ湖が形成された.翌年の決壊後も,残留した地すべり堆積物の再移動によって小規模な湖が形成された〔6〕.この湖の形成・消滅と河川への移行は,Thakkhola層の岩相変化と対比できる.また,パキスタン北部Hunza渓谷のAttabad湖は,2010年の地すべりによるHunza川の堰き止めで形成され〔7〕,現在も谷に沿った深い湖として存在している.この特徴はMarpha層の大規模で安定した湖と類似し,現生アナログと考えられる.
Marpha層では地すべり堆積物による河川の堰き止めが湖の形成要因とする見解〔4〕があるが,直接的証拠はなく,Thakkhola層も同様である.一方,現生アナログとしたPare Chuの例とAttabad湖はいずれも河川の堰き止めによって形成され,それぞれThakkhola層,Marpha層と類似した特徴を示すことから,両層と同様の特徴を持つ湖は河川の堰き止めによって形成され得ると考えられる.以上より,同じ河川の堰き止めにより形成された湖であっても,その形態や規模は大きく異なることから,山岳域の堰き止め湖の形態は,形成イベントそのものよりも,地形条件はもとより,それを形成した近過去のテクトニクスを強く反映している可能性がある.
Reference (1) Adhikari, B.R., 2009. Ph.D. thesis, Univ. Vienna. (2) Garzione, C. N., et al. ,2003. Sedimentology, 50, 703–724. (3) Hurtado, J.M. Jr. et al., 2001. Geol. Soc. Am. Bull., 113, 222–240. (4) Chahal, P. et al., 2025. J. Geophys. Res.: Earth Surf., 130. (5) Adhikari, B.R. et al., 2011. Aust. J. Earth Sci., 104, 66–80. (6) Ruiz-Villanueva, V. et al., 2017. Prog. Phys. Geogr., 41, 3–28. (7) Waragai, T. & Kajiyama, T., 2011. J. Geogr., 120, 993–1002.
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