講演情報
[T16-P-26]中新世~鮮新世におけるチベット高原南縁部の気候変遷:中央ネパール・ムスタン地域と北西インド・ラダク地域における古土壌の比較
*吉田 孝紀1、島田 誠明2、庄司 瑞輝2、Silwal Bishow Raj3、Gyawali Babu Ram4、Kumar Subhadeep5 (1. 信州大学理学部理学科地球学コース、2. 信州⼤学総合理⼯学研究科、3. Department of Mines and Geology, Nepal、4. Pokhara University, Rupandehi, Nepal 、5. DMT Consulting Private LTD, DMT Group, India)
キーワード:
ヒマラヤ、古土壌、古気候、チベット
はじめに
中央ネパールのムスタングラーベンに分布する中新統~鮮新統の Thakkhola 層(Adhikari, 2009)と、北西インド・ラダク地域に分布するインダス層群上部の中新統~鮮新統Nimu層(Searle et al., 1989; Henderson et al., 2010)はチベット高原南縁部に位置し,いずれもヒマラヤ造山帯の隆起に伴う大規模な環境変化を記録する重要な陸成堆積物である。両地域は、山岳地形の急速な形成、流域の再編成、そして南アジアモンスーンの成立・変遷を反映する古環境アーカイブとして位置づけられる。本研究では、これら二つの堆積盆地に発達する古土壌を比較し、ヒマラヤ隆起が内陸盆地の気候条件に与えた影響を古土壌学的観点から検討した。
ネパール中央部と北西インドの中新統~鮮新統古土壌
ムスタングラーベンを充填する Thakkhola 層 (Garzione et al., 2003) は、下部が淘汰不良の角礫を主体とする扇状地~デルタ環境、中部~上部が亜円礫を含む斜交層理礫岩を特徴とする網状河川~低蛇行河川環境で形成されたと考えられる。中部には湖成泥質岩や周氷河環境を示す角礫岩が挟在し、堆積環境の変動が顕著である。古土壌は層序に沿って成熟度が大きく変化し、下部には季節性の強い湿潤条件下で形成された成熟度の高い Oxisol、中部には Alfisolが複数の層準に発達し、上部には乾燥条件下で形成された Aridisol が認められる。
一方,北西インドのインダス層群では、古第三系Nurla 層・Choksti Conglomerate 層・Hemis Conglomerate 層、そして新第三系中新統の Nimu 層が分布する。このうち Nimu 層には蛇行河川や湖水環境で形成された砕屑岩類が発達し、氾濫原堆積物には Inceptisol や Entisol が形成されている。これらの古土壌はグライ化を受けるものが多く、湿地性古土壌やグライ化を被った乾地性古土壌が卓越する。地下水位が高く、古地表面直下の酸化還元状態が頻繁に変化したことが記録されている.
議論
両地域とも詳細な堆積年代が判明しておらず、厳密な時代比較は困難である。しかし、中新世から鮮新世にかけて成熟した古土壌が減少する傾向は共通しており、乾燥化の進行と内陸盆地としての特徴の強化が示唆される。一方、北西インドでは土壌の熟成が抑制される条件が長期にわたり維持されていたと解釈される。また,ムスタングラーベンで認められるような Alfisol は Nimu 層では確認されず、両地域の古土壌成熟度には明瞭な差異がある。
ムスタングラーベンではThakkhola層中部で複数回の湿潤化が記録されており、ヒマラヤ隆起に伴う単純な降水減少・乾燥化だけでは説明できない。標高上昇に伴う地形的障壁の発達はインド亜大陸北部の大気循環に影響を与え、ITCZ の北上や局所的な湿潤気団の侵入を誘発した可能性がある。これにより古地表面の酸化・還元状態が繰り返し変化し、異なる成熟度の古土壌が同一層序内に形成されたと考えられる。また,ヒマラヤ山脈における地域的な隆起速度・浸食速度の差異が降水域の規模や分布を大きく変化させ,山脈背後に位置する内陸盆地での古土壌形成に影響を与えたと考えられる.
引用文献
Adhikari, R.B., 2009, Ph.D. Thesis, University of Vienna, 200 p.: Garzione, C.N. et al., 2003, Geol. Soc. Am. Bull., 115, 3–20.: Henderson, A.L. et al., 2010, Tectonics, 29, 1–35.: Searle, M.P. et al., 1989, Tectonophysics, 174, 301–314.
中央ネパールのムスタングラーベンに分布する中新統~鮮新統の Thakkhola 層(Adhikari, 2009)と、北西インド・ラダク地域に分布するインダス層群上部の中新統~鮮新統Nimu層(Searle et al., 1989; Henderson et al., 2010)はチベット高原南縁部に位置し,いずれもヒマラヤ造山帯の隆起に伴う大規模な環境変化を記録する重要な陸成堆積物である。両地域は、山岳地形の急速な形成、流域の再編成、そして南アジアモンスーンの成立・変遷を反映する古環境アーカイブとして位置づけられる。本研究では、これら二つの堆積盆地に発達する古土壌を比較し、ヒマラヤ隆起が内陸盆地の気候条件に与えた影響を古土壌学的観点から検討した。
ネパール中央部と北西インドの中新統~鮮新統古土壌
ムスタングラーベンを充填する Thakkhola 層 (Garzione et al., 2003) は、下部が淘汰不良の角礫を主体とする扇状地~デルタ環境、中部~上部が亜円礫を含む斜交層理礫岩を特徴とする網状河川~低蛇行河川環境で形成されたと考えられる。中部には湖成泥質岩や周氷河環境を示す角礫岩が挟在し、堆積環境の変動が顕著である。古土壌は層序に沿って成熟度が大きく変化し、下部には季節性の強い湿潤条件下で形成された成熟度の高い Oxisol、中部には Alfisolが複数の層準に発達し、上部には乾燥条件下で形成された Aridisol が認められる。
一方,北西インドのインダス層群では、古第三系Nurla 層・Choksti Conglomerate 層・Hemis Conglomerate 層、そして新第三系中新統の Nimu 層が分布する。このうち Nimu 層には蛇行河川や湖水環境で形成された砕屑岩類が発達し、氾濫原堆積物には Inceptisol や Entisol が形成されている。これらの古土壌はグライ化を受けるものが多く、湿地性古土壌やグライ化を被った乾地性古土壌が卓越する。地下水位が高く、古地表面直下の酸化還元状態が頻繁に変化したことが記録されている.
議論
両地域とも詳細な堆積年代が判明しておらず、厳密な時代比較は困難である。しかし、中新世から鮮新世にかけて成熟した古土壌が減少する傾向は共通しており、乾燥化の進行と内陸盆地としての特徴の強化が示唆される。一方、北西インドでは土壌の熟成が抑制される条件が長期にわたり維持されていたと解釈される。また,ムスタングラーベンで認められるような Alfisol は Nimu 層では確認されず、両地域の古土壌成熟度には明瞭な差異がある。
ムスタングラーベンではThakkhola層中部で複数回の湿潤化が記録されており、ヒマラヤ隆起に伴う単純な降水減少・乾燥化だけでは説明できない。標高上昇に伴う地形的障壁の発達はインド亜大陸北部の大気循環に影響を与え、ITCZ の北上や局所的な湿潤気団の侵入を誘発した可能性がある。これにより古地表面の酸化・還元状態が繰り返し変化し、異なる成熟度の古土壌が同一層序内に形成されたと考えられる。また,ヒマラヤ山脈における地域的な隆起速度・浸食速度の差異が降水域の規模や分布を大きく変化させ,山脈背後に位置する内陸盆地での古土壌形成に影響を与えたと考えられる.
引用文献
Adhikari, R.B., 2009, Ph.D. Thesis, University of Vienna, 200 p.: Garzione, C.N. et al., 2003, Geol. Soc. Am. Bull., 115, 3–20.: Henderson, A.L. et al., 2010, Tectonics, 29, 1–35.: Searle, M.P. et al., 1989, Tectonophysics, 174, 301–314.
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