講演情報
[T12-O-2]和歌山県九龍島の海食洞に見られる炭酸塩沈殿物
*狩野 彰宏1、柏木 健司2、小竹 祥太3 (1. 東京海洋大学、2. 富山大学、3. パイオニアケイビングプラブ)
キーワード:
洞窟、炭酸塩、安定同位体
海食洞は波浪による侵食で形成された洞窟であり,日本列島の海岸線に多数発達する。雨水や地下水による石灰岩の溶食作用でできる鍾乳洞とは異なり,海食洞はあらゆる母岩で発達する。私たちが調査した和歌山県串本町の九龍(くろ)島は古座川河口から約1 km沖にある長径約300 mほどの無人島であり,層理の発達する礫岩から構成されている。礫は火成岩類に加え,石灰質頁岩や黒色頁岩,チャートも含まれている。地層の帰属は,中新統熊野層群ないしより新期の地層と考えられている。地層はゆるやかに南西に傾き,北北西–南南東走向の多数の高角断層により切られている。洞窟はこれらの断層沿いに直線的に発達し,相互に連結している。現在まで確認された洞窟の総延長は600 m弱である。海面付近のレベルにある洞床の一部では母岩が露出しているが,砂礫や崩落した岩塊,ないし海浜砂に埋められている。一方,壁面と天井には鍾乳石(ツララ石,フローストーン)や洞窟サンゴのような2次生成物が,壁面下部には多毛類ヤッコカンザシの外殻が認められた。私たちは海食洞内の数カ所の露頭と転石から炭酸塩鉱物を含むツララ石,洞窟サンゴ,多毛類,石灰質頁岩の礫を採集し,質量分析計Thermo Delta Plusと前処理装置Gas Bench IIで安定同位体比を測定した。採集した試料の炭素同位体比は最低–4.5‰,最高+8.5‰であり,酸素同位体比は最低–9.2‰,最高+0.4‰であった。炭素同位体比が低いのは石灰質頁岩であり,ツララ石内部と多毛類もやや低い値を示す。これに対して,ツララ石外部と洞窟サンゴは炭素同位体比が低い。酸素同位体比も石灰質頁岩で最も低く,次にツララ石内部が低い値を示した。ツララ石外部と洞窟サンゴはやや高い値を示し,多毛類が最も高い。炭素同位体比と酸素同位体比は全般的に正の相関を示した。特に淡水から生成した,ツララ石(内部と外部)と洞窟サンゴの試料で相関は強かった。九龍島の鍾乳石の炭素・酸素同位体比は他の洞窟のものに比べて著しく高い。例えば,九龍島の北北東約100 kmにある霧穴(三重県大紀町)の鍾乳石では,炭素同位体比が–7から–10‰,酸素同位体比が–6から–7‰である (Murata et al., 2025)。鍾乳石外部と洞窟サンゴのように炭素・酸素同位体比を高くするためには,水が蒸発しながら滴下水から炭酸カルシウムがゆっくりと沈澱する必要がある。その過程で,軽い水の蒸発で酸素同位体比が高くなり,軽い炭素を除く二酸化炭素脱ガスで炭素同位体比が高くなる。蒸発と二酸化炭素脱ガスの効果はツララ石の内部で小さく,外部ほど大きくなり,測定結果を整合的に説明できる。九龍島の母岩には石灰質頁岩の他に石灰質なものはなく,九龍島の地層を浸透する水のカルシウム濃度は低く,炭酸塩の沈澱には水分の蒸発が必要であると思われる。謝辞:南紀熊野ジオパークからは研究助成金の支給を受けた。和歌山県教育委員会からは九龍島での調査と試料採集を許可していただいた。
文献:Murata et al. (2025) Island Arc, 34(1), e70002.
文献:Murata et al. (2025) Island Arc, 34(1), e70002.
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