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[T18-O-9]西太平洋南鳥島沖の遠洋性赤色粘土における白亜紀/古第三紀境界の復元

*佐藤 峰南1、臼井 洋一2、見邨 和英3、石川 晃4、安川 和孝5、大田 隼一郎5、加藤 泰浩5 (1. 九州大学、2. 金沢大学、3. 産業技術総合研究所、4. 東京科学大学、5. 東京大学)
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キーワード:

白亜紀/古第三紀境界、古地磁気層序、イクチオリス、強親鉄性元素、オスミウム同位体

 直径約200 kmのChicxulubクレーターを形成した白亜紀/古第三紀(K/Pg)境界の巨大天体衝突イベントにより,堆積物中には全球的な強親鉄性元素(HSE)の異常濃集と海洋中のオスミウム同位体比(187Os/188Os)の急激な低下が記録された.このHSE異常濃集とOs同位体比負異常は,微化石層序に加えてK/Pg境界を示す重要な地球化学的指標となっている(e.g., Ravizza and VonderHaar, 2012; Goderis et al., 2013).一方,赤色粘土が卓越する遠洋域では石灰質・珪質の微化石の保存性が低く,K/Pg境界の認定は依然として困難である.そこで本研究では,西太平洋南鳥島周辺海域で採取されたピストンコア試料KR13-02 PC05を対象として,イクチオリス化石層序,古地磁気層序,HSE濃度およびOs同位体比層序を統合することにより,遠洋性粘土中のK/Pg 境界の認定を試みた.
 研究の結果,南鳥島周辺の堆積物について定義されている化学層序Unit V upperに対応する約8.5〜11.5 mbsfの区間は,イクチオリス化石層序との対比から後期白亜紀〜暁新世初期に相当することが示された(Tanaka et al., 2020; Mimura et al., 2025).さらに,約9.95 mbsfではIr(~16 ppb),Ru(~16 ppb),Pt(~43 ppb)の顕著な濃集とともに,187Os/188Os比が約0.14まで低下し,K/Pg境界に特徴的な地球外物質の供給を示す地球化学シグナルが認められた(Sato et al., 2026).古地磁気解析では対象範囲にC29n~C30nに対応すると考えられる地磁気極性が認められ,地球化学的に認定したK/Pg境界はその層序学的位置からC29r内に位置すると解釈された.これら複数の層序学的指標を統合した結果,本研究コア試料のK/Pg境界付近における平均堆積速度は約0.8 cm/kyrと推定された.
 さらに,認定した境界層の地球化学組成について詳細に検討した結果,Os同位体比およびOs/Ir比に特徴的な挙動が認められた.境界層のOs/Ir比は約0.05と,コンドライト隕石(Os/Ir ≈ 1; Fischer-Gödde et al., 2010)と比較して著しく低く,コンドライド組成に対してOsが相対的に欠乏していることが示された.また,K/Pg境界の上下約30 cmの区間では,187Os/188Os比は約0.2の低い値を示し,Os/Ir比についても約0.05でほぼ一定の値を示した.この特徴は,堆積速度が極めて遅い環境下において生物擾乱により衝突物質が上下方向に拡散・混合された結果を反映している可能性が高い(Ijima et al., 2016; Sato et al., 2026).一方,境界下位の一部層準では,低いOs同位体比(187Os/188Os ≈ 0.2)と高いOs/Ir比(≈ 0.3)が同時に認められ,宇宙塵の混入による影響を示唆する.
 以上の結果は,遠洋性粘土に記録されたOs同位体比記録が,生物擾乱や地球外物質の継続的なバックグラウンド供給によって大きく影響を受けることを示している.そのため,遠洋性粘土を用いてK/Pg境界前後の海洋Os同位体比変動を議論する際には,複数の層序学的指標による年代制約と地球化学データの慎重なスクリーニングが不可欠である.本研究は,堆積速度が非常に遅い環境でのK/Pg境界の認定と衝突後の海洋環境復元に対して,多面的な年代学的・地球化学的アプローチが有効であることを示すとともに,遠洋性赤色粘土中に保存されたOs同位体記録を用いて古海洋環境を議論する際には,堆積過程の影響を十分に考慮する必要があることを示した.

【引用文献】Ravizza and VonderHaar, 2012, Paleoceanogr., 27, PA3219; Goderis et al., 2013, Geochim. Cosmochim. Acta, 120, 417-446; Tanaka et al., 2020, Ore Geol. Rev., 119, 103392; Mimura et al., 2025, Paleoceanogr. Paleoclimatol., 40, e2024PA004938; Sato et al., 2026, Geochem. Geophys. Geosyst., 27, e2026GC013078; Fischer-Gödde et al., 2010, Geochim. Cosmochim. Acta, 74, 356-379; Iijima et al., 2016, Geochem. Jour., 50, 557-573.

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