講演情報

[T18-O-10]インド洋IODPコアにおけるチクシュルブ衝突およびデカン火山活動期の地球化学層序★2026年度学生優秀発表賞受賞★

*太田 映1、黒田 潤一郎1、Maria Tejada2、鈴木 勝彦2、久保 雄介3、石川 晃4 (1. 東京大学 大気海洋研究所、2. 海洋研究開発機構、3. 海洋研究開発機構高知コア研究所、4. 東京科学大学 理学院地球惑星科学系)
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キーワード:

K-Pg境界、チクシュルブ衝突、デカン火山活動、オスミウム同位体比、インド洋


 約6600万年前の白亜紀―古第三紀(K-Pg)境界は、現在のメキシコ湾・ユカタン半島に巨大クレーターを形成させた天体衝突(チクシュルブインパクト)によって特徴づけられる。この衝突に伴い、地球表層環境は急激に変化し、生物種の最大75%が絶滅したとされる。また、同時期にはインド亜大陸におけるデカン洪水玄武岩の大規模噴出も発生しており、全球的な気候変動に影響を与えたとされている。これらのイベントに伴う全球的・地域的な環境応答を解明するためには、世界各地において高時間分解能のK-Pg境界層序を確立し、地域間で精密に対比することが不可欠である。
 本研究では、K-Pg研究における地理的空白域であるインド洋に着目し、2地点の海洋掘削コアを用いて、オスミウム同位体比(187Os/188Os)および白金族元素濃度に基づく層序学的検討を行った。オスミウム(Os)やイリジウム(Ir)などの白金族元素の濃度のピークは世界中のK-Pg境界層で確認されている(e.g. Alvarez et al., 1980)。また、海底堆積物の187Os/188Os比の低下は、天体衝突および火山活動を記録する最も信頼性の高い地球化学的指標の一つであり、K-Pg境界層の対比にも広く用いられてきた (e.g. Ravizza & Peucker-Ehrenbrink 2003)。
 第一の研究対象は、オーストラリア北西沖ウォンバット海台で掘削されたOcean Drilling Program (ODP) Site 761 Hole B (16°44.23'S, 115°32.10'E)である。本コアからは連続性の高い187Os/188Os比変動が得られ、その変動パターンは太平洋と大西洋のデータ(Westerhold et al., 2025)とよく一致する。このことから、本コアは白亜紀末マーストリヒチアン期における海水187Os/188Os比変動の高精度な標準カーブを構築するうえで重要な記録となる可能性が高い。学会発表日までにすべてのサンプルの分析を完了させ、デカン火山活動との関係についても議論する予定である。
 第二の研究対象は、オーストラリア南西沖メンテーレ海盆で掘削されたInternational Ocean Discovery Program (IODP) Site U1514 Hole C (33°7.24'S, 113°5.48'E)である。本コアでは、生層序K-Pg境界において、明瞭なPGE濃度のピークと187Os/188Os比の低下が認められた。この結果は、南半球高緯度地域において数少ない連続的なK-Pg境界層が保存されていることを示す。一方で、マーストリヒチアン期における187Os/188Os比の低下のタイミングは太平洋と大西洋の記録とは一致しない。この不一致は、古地磁気逆転に基づく年代モデルに大きな不確実性が含まれることに起因する可能性が高い。学会発表日までに炭素同位体比分析を完了させ、187Os/188Os比変動と対比にもとづいて、より詳細な層序検討を行う予定である。
 以上の結果は、インド洋におけるK-Pg境界およびデカン火山活動期の層序的枠組みを提示し、他海域との高精度な対比を可能にするものである。本研究は、K-Pg境界前後における地球規模および地域規模の環境変動を理解するうえで重要な基盤を提供する。

【引用文献】
Alvarez, L. W. et al. Extraterrestrial cause for the Cretaceous-Tertiary extinction. Science 208, 1095–1108 (1980).
Ravizza, G. & Peucker-Ehrenbrink, B. Chemostratigraphic evidence of Deccan volcanism from the marine osmium isotope record. Science 302, 1392–1395 (2003).
Westerhold et al. Earth orbital rhythms links timing of Deccan trap volcanism phases and global climate change. Sci. Adv. 11 eadr8584 (2025).

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