講演情報
[T10-P-5]幌満かんらん岩の炭酸塩化反応実験に基づく割れ目反応場での炭酸塩鉱物形成過程の評価
*下手 瑞生1、纐纈 佑衣1、西山 直毅2、片山 郁夫3 (1. 名古屋大学、2. 産業技術総合研究所、3. 京都大学)
キーワード:
幌満かんらん岩、ダナイト、超臨界CO2反応実験、CCS、炭酸塩鉱物
二酸化炭素(CO2)の地中貯留(Carbon Capture and Storage:CCS)は,温室効果ガス排出削減技術として期待されている.中でも鉱物固定は,CO2を熱力学的に安定な炭酸塩鉱物として長期固定できることから,有望な貯留手法として注目されている.かんらん岩は主成分であるオリビンの高い反応性により,大量のCO2を固定できる可能性を有する.一方,天然のかんらん岩を対象とした研究では,炭酸塩鉱物の生成位置や生成機構については十分に理解されていない.本研究では,将来的にCCS掘削計画が進められている北海道幌満かんらん岩体を対象とし,超臨界CO2-H2O条件下での炭酸塩化反応実験に基づき,割れ目反応場における炭酸塩鉱物形成過程を評価した.試料には幌満かんらん岩体より採取したダナイトを用いた.サンプルは,粒径63 µm以下の粉末および約2 cm角のブロック状に成型した.ブロック試料には岩石全体を貫く割れ目が存在することをμ-XCT観察により確認した.反応実験は超臨界CO2反応装置を用い,95 ℃,20 MPaで382時間実施した.反応前後の試料に対してSEM-EDSおよびラマン分光分析を行い,粉末試料では無機炭素量を測定した.また,反応後溶液をICP-OESにより分析し,オリビン溶解に伴う元素の溶出挙動を評価した.反応後溶液では,粉末試料およびブロック試料のいずれにおいてもMgおよびSi濃度が大きく増加したことから,両試料でオリビン溶解が進行したことが確認された.また,多くの元素では粉末試料とブロック試料との間に顕著な濃度差は認められなかった.粉末試料では,反応後に表面を薄い膜状物質が覆う粒子(α粒子)と,層状構造を示す粒子(β粒子)の2種類が観察された.α粒子ではオリビン表面と膜との間にアモルファス物質が存在し,膜の外側には層状物質が形成していた.SEM-EDS分析ではα粒子に炭素はほとんど認められなかったのに対し,β粒子は炭素に富みSiに乏しい組成を示した.さらに,ラマン分光分析によりβ粒子はマグネサイトと同定された.無機炭素分析では反応後試料に0.039 mg C mg-1の炭素が固定されており,固定炭素がすべてマグネサイトであると仮定すると,試料の27.4 wt%がマグネサイトへ転換したと推定された.これらの結果から,オリビンの溶解に伴ってアモルファスシリカ膜が形成され,その界面で溶解・析出反応が継続し,膜外側に層状マグネサイトが晶出する反応機構が示唆された.一方,ブロック試料では,反応後に表面の緑色が黄色へ変化し,既存割れ目の拡大が認められた.割れ目内部には層状構造を有する円盤状結晶が晶出し,SEM-EDS分析ではMg,C,Oを主成分とする組成を示した.形状と組成から,この生成物はネスケホナイト(Nesquehonite:MgCO3 ⋅ 3H2O)であると推察された.しかし,ラマン分光分析ではマグネサイトのシグナルが確認された.これは,反応中にネスケホナイトが生成し,実験後の大気環境で脱水・再結晶化を経てマグネサイトに転移した可能性を示す.また,炭酸塩鉱物は岩石全体ではなく割れ目内部に局所的に生成しており,割れ目が反応表面積の増加や局所的な溶液組成の濃集をもたらすことで,炭酸塩晶出の主要な反応場として機能したと考えられる.水和炭酸塩は,温度・水活量に敏感であり,地下環境では長期的により安定なマグネサイトへ向かう事が予想される.したがって,本研究で観察された割れ目内部での初生生成相が時間とともに安定相へ転移する二段階プロセスは,天然岩体でのCO2固定の長期挙動を理解する上で重要な示唆を与える.以上より,幌満かんらん岩は高い炭酸塩化ポテンシャルを有し,特に割れ目反応場での炭酸塩鉱物形成とその後の相転移過程がCCSにおける長期固定の鍵となることが示された.今後は,割れ目構造の制御,反応促進剤の導入,温度条件の最適化など,相転移過程を踏まえた炭酸塩化反応の加速手法の検討が求められる.
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